今日、紹介するのは昨年公開の「蛇イチゴ」。監督は「誰も知らない」の是枝裕和のお弟子さんの西川美和。私より4つ上の美人のお姉さん(正直、クラクラときた)でこれが第一作目。毎年毎年、新しい映画監督が続々と出てきて、それなりに目を引く作品は多いのですが見て一ヵ月後には忘れてる作品が多い。「蛇イチゴ」は昨年のちょうど今ごろに見た映画で、見た当時は面白いなとは思ったがそう高くは買わなかった。ただ興味はあってもう一回見てみたいなと思ってて先日にスカパーで久しぶりに見返してみた。演出にたどたどしさは見えるが、面白い映画でなかなか考えさせられる映画であった。

 誰の目にも普通の家族に見える明智家。今日も父親の芳郎(平泉征)は、娘の倫子(つみきみほ)と出勤し、母親の章子(大谷直子)は家事に勤しんでいた。悩みらしい悩みと言えば、祖父の京蔵(笑福亭松之助)の痴呆であったが章子は文句一つ言うことなく、世話をしていた。明智家は今日も平和であった。が、そう思ってたのは倫子だけであった。倫子は教師であり、同僚の鎌田(手塚とおる)と付き合っていた。

 ある晩、倫子は鎌田を父母に紹介するために家に連れてきた。ぎこちなくも、お互いが気を使いながら、和気あいあいと会話を楽しむ家族たち。しかし、これが明智家の平和な日の最後であった。芳郎はリストラされたことを家族に告げることが出来ずに借金を繰り返し、今ではかつての部下(寺島進)に金をせびる有様。借金の額も相当額になっていた。倫子曰く「お母さんとおじいさんは心の底から信頼しあってるの」。そんなことがあるわけなく、章子は円形脱毛症になるほど介護に疲れ果てていた。芳郎が自分の父を見て「人間こうなったら終わりだな。。」と呟く。それを見て心の糸が切れた章子は発作に苦しむ祖父を見殺しにしてしまう。

 数日後、祖父の葬式会場で倫子は思いがけない再会を果たす。兄の周治(宮迫博之)だ。彼は手八丁口八丁の根っからの詐欺師で父から勘当されていた。倫子はかわいがってくれた祖父が死んだので葬式に来てくれたと思ったが、真相は違った。周治は香典泥棒の常習犯で今日も”仕事”の真っ最中だったのだ。

 出棺の列の前に男が立ちふさがった。芳郎の顔色が見る見るうちに変わる。借金取りだ。借金取りは家族や親族や友人の前で全てをぶちまけてしまった。おろおろする家族。その時に颯爽と表れたのが弁護士を装った周治だった。周治は借金取りをうまく丸め込んでしまう。。。周治が10年ぶりに家に帰ってきたのだ。

 大学に行ってると騙して学費を騙し取ったり、妹の下着を売り飛ばしたりなど家族すらも平気で騙す周治。父も母もそのことを充分知ってて勘当にしたのだが、彼はあっさりと帰って来てしまう。「お父さん、このままでは破産だよ。僕が何とかするからお父さん、何も持ってないことにしちゃう?」と家の権利書を預かってしまう。家を売り飛ばしてトンズラ。それがいつもの周治だ。しかし、父も母もコロリと騙されてしまう。「まさか家族まで騙さないだろう」それをやってきたのが周治なのに。鎌田に棄てられて一人冷静になった倫子は兄を家を守る為に兄にある質問をする。。
 
 この映画で一番の注目株はなんと言っても詐欺師の兄貴を演じた宮迫。宮迫の演技力は「岸和田少年愚連隊」の頃から有名で昨今でもドラマや映画に多く出ています。「十三階段」の死刑囚役なんかよかったな。あれを見た時にこいつは本当に演技うまいと思った。ただ今回の演技は今までの宮迫とは全然違う。演技をほとんどしてないのだ。ありあまる演技力をさらりと棄て去っている。パンフに本人のインタビューに載っています。

「最初に脚本を読ませていただいたときにまず感じたのが『これ、俺やん!』でした。芸人と詐欺師って、ほんまには紙一重でその差はたまたまでしかない。じゃあ、その差は何か。それってたぶん、たまたまでしかない。ぼくは人との出会いに助けられた。出会う人がプラスになった。でも周治出会った人がマイナスだったから、ああなってしまったというだけで。僕、詐欺師になっていたかもしれない自分を想像できますから。」

 悪人を装うことなく、善人を装うことも無く、ふと気づけば向こうのペースに丸め込まれて騙される。外から見れば、「何故そのような話に騙される?」と思うのだが本人にそう思わせないところが詐欺師のすごいところ。宮迫は自分がメシを食っている、芸人としての素質は裏返せば詐欺師の才能であることを見据えて宮迫はその世界で生きている。正直、これを読んだ時に背中に悪寒がはしった。周治はもう一人の宮迫なのだ。善人には見えないが悪人には見えない。そこから善人と思わせていくのだ。激昂することなく、薄笑いを浮かべながら。

 他は俗人っぷりを体現している平泉征、人生に疲れきっている大谷直子、一人背筋伸ばして頑張るつみきみほ、憎みきれないボケ爺様の笑福亭松之助、大阪人らしいドライな姿勢に徹した絵沢萠子と他のキャストもそれぞれに素晴らしい。大谷直子の円形脱毛症はマジにかみそりでジョリジョリとやっちゃったらしい。さすが、デビューの「肉弾」から脱ぎも辞さずの女優さんでございます。平泉征のあの台詞回しもいいなあ。

 派手さはないし、演出の工夫も効果が低いが脚本の組み立てがうまくて、ぐいぐい引き込まれていく。つみきみほの独特の喋り方も映画にテンポを出している。ラストカットの使い方もうまいしね。西川監督の次回作にも超期待だ。撮影は「殺し屋イチ」「ゲロッパ!」の山本英夫なんだね。光を絞ってくらーい感じにしてて画面が落ち着いていた。例えるなら背中に突きつけられた真綿にくるまれた匕首。ふっと気づけばぞっとくるような見事な佳作で、思わずうなってしまった。

監督、脚本:西川美和 プロデューサー:是枝裕和 撮影:山本英夫 美術:磯見俊裕キャスト:宮迫博之、つみきみほ、平泉征、大谷直子、絵沢萠子、手塚とおる、寺島進、菅原太吉、笑福亭松之助、蛍原徹

http://www.kore-eda.com/hebiichigo/

コメント

お気に入り日記の更新

日記内を検索