【井筒和幸初期作品】ガキ帝国〜しばきハンダづけじゃ!〜
2004年10月20日 過去日本映画
今日、紹介するのは「ガキ帝国」。大阪でポルノを作りながら、牙を研いでいた若き井筒和幸がぷがじゃ(プレイガイドジャーナルという大阪のタウン誌の通称。中島らももコピーライター時代に連載していた)とATGから集めた1000万円と気合で1981年に撮った痛快傑作。今でこそ井筒和幸と言えば、誰でも知ってる有名人ですが、当時の井筒は全くの新人。
「にっぽん脚本家クロニクル」という大変分厚い本に「ガキ帝国」の脚本を書いた西岡琢也のインタビューが載っています。当時の井筒は自主製作でポルノを作っていた。当時、自主制作はブームで関西でも大森一樹という存在があったわけですが、映画好きの学生が作るのとは違い、井筒の面白いところは映画で商売をしようとしてたところであったと西岡は語っています。とにかく、型破りな男だったわけです。
「ガキ帝国」はこの年のキネマ旬報7位と高い評価を受けます。関西のベテラン映画評論家だった滝沢一が2位に挙げています。他に山根貞男、浅野潜、川本三郎、佐藤忠男(!)、品田雄吉と様々な映画評論家が評価をしています。あ、もちろん松田政男も入れています。井筒は一気にスターダムに駆け上がり、1985年に撮った角川映画「二代目はクリスチャン」でその名声を確かなものにします。しかし、その名声をその後に棄ててしまうのもこの人なのだ。しばらくの迷走を経て「岸和田少年愚連隊」で帰ってきます。
1967年の万博を間近に控えた大阪。 少年院から出てきたリュウ(島田紳助)はツレのケン(趙方豪)とチャボ(松本竜介)と喫茶店で久しぶりのあんみつに舌鼓を打っていた。リュウが入院中に大阪の不良情勢はキタにクロとグリコ(名前が江崎だから)が率いる北神同盟、ミナミに服部(北野誠)率いるホープ会に分かれていた。ホープ会はタバコをホープしか吸わない。
リュウの年少仲間の高(升毅)は北神同盟に入った。ヤクザの小野(上岡龍太郎)に気に入られた高は「明日のジョー」と呼ばれ、めきめきと力をつけていく。それは北神同盟がヤクザの下部組織に取り込まれていく過程でもあった。彼はやがてグリコとクロを叩きのめし、会長の座を奪った。
リュウの実家の工場である鉄を盗みにくる在日朝鮮人の一団があった。リュウの父(夢路いとし)に「アパッチ」と名づけられた彼らはケンの知り合いであった。ケンと高は共に在日であり、彼らはみな、顔見知りであった。ある日、「アパッチ」の一人がホープ会の連中に改造銃で殺された。怒ったケンは服部を襲撃して、大怪我を負わせる。会長に引き続き、北神同盟に副会長のポパイ(上野淳)までやられてしまったホープ会はリュウとチャボを会長にした「ピース会」(今度はピースしか吸わない)を結成する。徒党を組むのは嫌がったケンは二人と距離をおき、音楽にのめりこんでいった。一方、ヤクザの下部組織として女の調達をやっていた北神同盟はますます巨大化。ピース会との激突は時間の問題であった。。
1000万映画というのが当時のATG映画のウリでしたが、本当に1000万円で映画を作るというのは極めて難しかったそうです。西岡琢也によると紳助と竜介のギャラが10万で上岡龍太郎は車代、他の出演者は日給800円。交通費はもちろんなし。吉本の支援もあったそうですが、これは関西人の「おもろいからやったろうや」という心意気でできた映画です。木下ほうか、徳井優、國村準と今や彼ら抜きに日本映画は語れないというまでになった名優もこの作品でデビューしています。当時、アングラ劇団にいた大杉漣も劇場映画のデビューはこの作品。自著によると切れ端のフィルムをつなげての撮影で「フィルムがないんでリテイクなしでお願いします。NGの場合はあなたの出演シーン削りますから」と言われて必死に長い台詞を覚えたらしい。
主人公は紳助、竜介なんだが井筒の思いはケンに入っている。徒党を組まずに自由に生きることを何よりも大事にしている。彼は朝鮮人なのだが、仲間から距離をおいているという設定も面白い。当時、横山やすしが自著の中で朝鮮人の蔑称を使ったことで抗議を受けて出版差し止めになるなど、タブーだった在日朝鮮人問題に切り込んだ視点も斬新だと思う。実際、クレームもついたそうですがキチンと説明して突っぱねたようです。今でこそ、「GO」みたいな映画もありますが一昔前はそうした問題がタブーだった頃があった。それにあえて挑んだところも凄い。
映画全体にみなぎってるパワーが物凄い。登場人物がみな、ギラギラしててまぶしいぐらい。喧嘩のシーンで本気で殴ってるし、上岡龍太郎も蹴りをマジに入れていた。趙方豪が特によかったなあ。知り合いの女の子がポルノ映画に出ているのを見て「なつかしなってなあ。。何回もみてしもたわ」と呟くシーンとかボコボコにされたあとに「やっぱミナミってええなあ。。」と顔を腫れさせながらも嬉しそうに語るシーンなんかが実に良かった。早世が惜しまれる。
井筒の映画は台詞が実に面白いのだがこの映画でも漫才みたいな掛け合いが面白い。「しばきハンダづけじゃ!」とか、グリコ、ポパイ、ホープ会などのネーミングもとっても楽しい。スマートには程遠く、生身をぶつけるような、とっても関西らしい映画。これがDVDで見れる、今の時代って凄い。
おまけ
同じ年、井筒は趙方豪を主演にして「ガキ帝国 悪たれ戦争」という映画を作りましたがビデオにもなっていませんし、リバイバル上映もほとんどされていない、幻の映画になっています。数年前に趙方豪の追悼で久しぶりに上映されましたが、大入り満員になったようです。真相は舞台がモスバーガーになってたらしいですが、店を壊してしまうというストーリーにクレームがついたことが原因みたいです。井筒もあっさり引き下がってるところから見てもあんまりたいしたことない作品なのかも。
監督、原案: 井筒和幸 脚本、助監督:西岡琢也 撮影:牧逸郎、プロデューサー: 林信夫、佐々木史朗 企画:多賀祥介 音楽:山本公成
出演:島田紳助、松本竜介、趙方豪、升毅、玉野井徹、中浩二、永田憲一、篠田純、山本孝史、藤田佳昭、北野誠、上野淳、けいすけ、名村昌晃、米村嘉洋、紗貴めぐみ、雅薇、森下裕巳子、渡辺とく子、平川幸雄、大杉漣、木下ほうか、徳井優、國村準、夢路いとし、上岡龍太郎
「にっぽん脚本家クロニクル」という大変分厚い本に「ガキ帝国」の脚本を書いた西岡琢也のインタビューが載っています。当時の井筒は自主製作でポルノを作っていた。当時、自主制作はブームで関西でも大森一樹という存在があったわけですが、映画好きの学生が作るのとは違い、井筒の面白いところは映画で商売をしようとしてたところであったと西岡は語っています。とにかく、型破りな男だったわけです。
「ガキ帝国」はこの年のキネマ旬報7位と高い評価を受けます。関西のベテラン映画評論家だった滝沢一が2位に挙げています。他に山根貞男、浅野潜、川本三郎、佐藤忠男(!)、品田雄吉と様々な映画評論家が評価をしています。あ、もちろん松田政男も入れています。井筒は一気にスターダムに駆け上がり、1985年に撮った角川映画「二代目はクリスチャン」でその名声を確かなものにします。しかし、その名声をその後に棄ててしまうのもこの人なのだ。しばらくの迷走を経て「岸和田少年愚連隊」で帰ってきます。
1967年の万博を間近に控えた大阪。 少年院から出てきたリュウ(島田紳助)はツレのケン(趙方豪)とチャボ(松本竜介)と喫茶店で久しぶりのあんみつに舌鼓を打っていた。リュウが入院中に大阪の不良情勢はキタにクロとグリコ(名前が江崎だから)が率いる北神同盟、ミナミに服部(北野誠)率いるホープ会に分かれていた。ホープ会はタバコをホープしか吸わない。
リュウの年少仲間の高(升毅)は北神同盟に入った。ヤクザの小野(上岡龍太郎)に気に入られた高は「明日のジョー」と呼ばれ、めきめきと力をつけていく。それは北神同盟がヤクザの下部組織に取り込まれていく過程でもあった。彼はやがてグリコとクロを叩きのめし、会長の座を奪った。
リュウの実家の工場である鉄を盗みにくる在日朝鮮人の一団があった。リュウの父(夢路いとし)に「アパッチ」と名づけられた彼らはケンの知り合いであった。ケンと高は共に在日であり、彼らはみな、顔見知りであった。ある日、「アパッチ」の一人がホープ会の連中に改造銃で殺された。怒ったケンは服部を襲撃して、大怪我を負わせる。会長に引き続き、北神同盟に副会長のポパイ(上野淳)までやられてしまったホープ会はリュウとチャボを会長にした「ピース会」(今度はピースしか吸わない)を結成する。徒党を組むのは嫌がったケンは二人と距離をおき、音楽にのめりこんでいった。一方、ヤクザの下部組織として女の調達をやっていた北神同盟はますます巨大化。ピース会との激突は時間の問題であった。。
1000万映画というのが当時のATG映画のウリでしたが、本当に1000万円で映画を作るというのは極めて難しかったそうです。西岡琢也によると紳助と竜介のギャラが10万で上岡龍太郎は車代、他の出演者は日給800円。交通費はもちろんなし。吉本の支援もあったそうですが、これは関西人の「おもろいからやったろうや」という心意気でできた映画です。木下ほうか、徳井優、國村準と今や彼ら抜きに日本映画は語れないというまでになった名優もこの作品でデビューしています。当時、アングラ劇団にいた大杉漣も劇場映画のデビューはこの作品。自著によると切れ端のフィルムをつなげての撮影で「フィルムがないんでリテイクなしでお願いします。NGの場合はあなたの出演シーン削りますから」と言われて必死に長い台詞を覚えたらしい。
主人公は紳助、竜介なんだが井筒の思いはケンに入っている。徒党を組まずに自由に生きることを何よりも大事にしている。彼は朝鮮人なのだが、仲間から距離をおいているという設定も面白い。当時、横山やすしが自著の中で朝鮮人の蔑称を使ったことで抗議を受けて出版差し止めになるなど、タブーだった在日朝鮮人問題に切り込んだ視点も斬新だと思う。実際、クレームもついたそうですがキチンと説明して突っぱねたようです。今でこそ、「GO」みたいな映画もありますが一昔前はそうした問題がタブーだった頃があった。それにあえて挑んだところも凄い。
映画全体にみなぎってるパワーが物凄い。登場人物がみな、ギラギラしててまぶしいぐらい。喧嘩のシーンで本気で殴ってるし、上岡龍太郎も蹴りをマジに入れていた。趙方豪が特によかったなあ。知り合いの女の子がポルノ映画に出ているのを見て「なつかしなってなあ。。何回もみてしもたわ」と呟くシーンとかボコボコにされたあとに「やっぱミナミってええなあ。。」と顔を腫れさせながらも嬉しそうに語るシーンなんかが実に良かった。早世が惜しまれる。
井筒の映画は台詞が実に面白いのだがこの映画でも漫才みたいな掛け合いが面白い。「しばきハンダづけじゃ!」とか、グリコ、ポパイ、ホープ会などのネーミングもとっても楽しい。スマートには程遠く、生身をぶつけるような、とっても関西らしい映画。これがDVDで見れる、今の時代って凄い。
おまけ
同じ年、井筒は趙方豪を主演にして「ガキ帝国 悪たれ戦争」という映画を作りましたがビデオにもなっていませんし、リバイバル上映もほとんどされていない、幻の映画になっています。数年前に趙方豪の追悼で久しぶりに上映されましたが、大入り満員になったようです。真相は舞台がモスバーガーになってたらしいですが、店を壊してしまうというストーリーにクレームがついたことが原因みたいです。井筒もあっさり引き下がってるところから見てもあんまりたいしたことない作品なのかも。
監督、原案: 井筒和幸 脚本、助監督:西岡琢也 撮影:牧逸郎、プロデューサー: 林信夫、佐々木史朗 企画:多賀祥介 音楽:山本公成
出演:島田紳助、松本竜介、趙方豪、升毅、玉野井徹、中浩二、永田憲一、篠田純、山本孝史、藤田佳昭、北野誠、上野淳、けいすけ、名村昌晃、米村嘉洋、紗貴めぐみ、雅薇、森下裕巳子、渡辺とく子、平川幸雄、大杉漣、木下ほうか、徳井優、國村準、夢路いとし、上岡龍太郎
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