今日、紹介するのは先日レビューしました「日本の首領」シリーズの二作目となる「日本の首領 野望編」。世間が大作主義に移行する中であえてプログラムピクチャーに固執した東映でしたが、遂に一本立て興行に踏み切ります。その第一作がこれ。日本映画自体が本当に駄目になってきた中で気を吐いたのが角川映画をはじめとする大作映画でした。1977年
にヒットした、橋本プロダクション「八甲田山」、角川映画の「人間の証明」「八つ墓村」は一本立て興行でお金をかけた大作映画だったのです。洋画に興行成績を追い抜かれて、ジリ貧になる中で、面白い映画を作るためにはお金をかけねばならない、という感じの風潮になって、現場の方からも「二本にかける予算を一本に当てた方がいい映画が作れるのではないか」という声が上がり始めた。
最も東映はこの後も二本立て興行を行ないますし、「男はつらいよ」や角川映画も二本立て興行を行ないます。ただ、この時期にプログラムピクチャー体制は終わりを告げたと言ってもいいでしょう。この時期、東映のやくざ映画の添え物として低予算のポルノ映画が多く作られました。くだらない作品が多かったらしいですが、実は助監督を監督に昇進させる、という意味合いもあったようです。60年代にはそうした低予算映画から深作欣二、佐藤純彌、中島貞夫などの後世に大活躍する監督が出てきたわけですが、70年代にはすっかり崩れてしまい、テレビやVシネマにそうした機会は流れていきます。一方、プログラムピクチャーで育った監督達も大作映画に対応せざるを得なくなり、中島貞夫も積極的に大作映画の世界に飛び込んでいきます。
関西最大の暴力団中島組の組長、佐倉一誠(佐分利信)の快気祝いが盛大に行なわれた。政界、財界から多くの快気祝いが集まったがこれは「手切れ金」のようなものであった。佐倉の体調不良と若頭の辰巳の死亡で中島組の求心力は弱まっていた。古参幹部の片岡(成田三樹夫)と辰巳の若衆で東大出のインテリである松枝(松方弘樹)は関東進出の計画を練る。松枝の指揮の元、総会屋の樽井(藤岡琢也)は男前の若宮(にしきのあきら)や柴田(星正人)を連れて横浜に「桜商事」という会社を設立する。目的は「ジャパンシップ」の乗っ取りへの介入だった。
一方、関東では関西暴力団の進出を食い止める為に関東同盟が結成されていた。理事長は右翼の大物、大山規久夫(内田朝雄)を後ろ盾にした大石(三船敏郎)。彼は強力なリーダーシップで野合同然だった関東同盟を率い、「桜商事」の介入を打破する。その過程で若宮は撃たれて死亡する。樽井は報復を誓うが片岡によって関東撤退を余儀なくされる。
一方、中島組では空席となった若頭の席を巡って片岡と松枝が対立していた。松枝は武闘派の天坊(菅原文太)を引き込んで暴力と謀略を組み合わせて、勢力を伸ばしていた。佐倉は若頭に松枝を指名。松枝は関東進出を積極的に進める。天坊は関東同盟の急先鋒であった真田(小松方正)を射殺する。松枝は佐倉の娘婿の一宮(高橋悦史)の友人である姉小路尚子(岸田今日子)の力を借りて高級秘密クラブを作る。政財界の大物の接待用にである。
東南アジアの軍事国家の首領、アナンタが来日した。国営石油開発の利権をめぐって関東同盟、中島組の接待攻勢が行なわれた。しかし女好きの彼の目にとまったのは一宮の病院の看護婦、かおる(金沢碧)であった。彼女には柴田という恋人がいたのだが。。
登場人物も多いし、ストーリーも複雑でなんともしんどい映画です。豪華キャストだけどね。原作は飯干寛一になっていますが、ネタは「やくざ戦争 日本の首領」で使い切ってしまい、この作品は高田宏治の完全なオリジナル。スポーツ新聞に小説として連載されたからか、実際に起こった事件のパロディが散りばめられています。ケレン味たっぷりの高田宏治らしい脚本なんですが、ドラマが少ないので感情移入する人物がいない。野坂昭如演じる殺し屋とか時代に押しつぶされて死んでしまう若いヤクザ達とかを中心に描いた方がよかったと思う。気を吐いたのは岸田今日子。後半の松方とのロマンスは映画に彩りを添えた。「わたくし、男に生まれたかったの」と男顔負けの度胸でクラブを切り盛りしていく姿は、背筋がしゃんと伸びる思いだ。
看護婦、かおるのエピソードはデヴィ夫人のパロディです。銀座のホステスだった彼女はインドネシア大統領のスカルノの夫人になります。彼女にも実は右翼の手先で共産党に興味を持っていたスカルノの情報を日本とアメリカに逐一、報告していたという噂がありますね。本当かどうか知りませんが。この映画はそうした、ホンマかいなと思う政財界の陰謀をドラマに使っています。リアルと言えばリアルなんだが、やはり同時代に見てこそ面白いというもので時代を越えた作品とは到底、言い難い。
近代的な合理組織になった暴力団の組織における組長はかつてのような「オヤジ」ではなく、リーダーである。リーダーがリーダーであり続ける為には合理的で正しい判断を下さねばならない。佐倉と大石はその世界に生き続ける。その中では情などを持つことはなく、意地汚いほどに権力にしがみつく覚悟が必要なのだろう。佐倉を演じる佐分利はそうした覚悟のカッコ悪さをも魅力にしている。それに対して大石を演じる三船は大物らしさは漂わせているんだが、ドロドロとしたものがなくて堂々としすぎてる。ヤクザらしくないんだよな。脇に佐藤慶とか小池朝雄みたいなうまい役者がいるんで違和感がでちまう。
佐倉と大石の対立は決着つかずに「日本の首領 完結編」に続いていきます。
監督:中島貞夫 脚本:高田宏治 企画:俊藤浩滋、日下部五朗、田岡満、松平乗道 原作:飯干寛一 撮影:増田敏雄 美術:佐野義和 音楽:黛敏郎 擬斗:上野隆三 進行主任:長岡功 ナレーション:森山周一郎
出演:佐分利信、三船敏郎、松方弘樹、成田三樹夫、東恵美子、折原真紀、高橋悦史、二宮さよ子、野口貴史、鈴木康弘、西田良、星正人、志賀勝、福本清三、松本泰郎、成瀬正、にしきのあきら、藤岡琢也、田口計、小沢栄太郎、嵐寛寿郎、内田朝雄、小池朝雄、五十嵐義弘、佐藤慶、岩尾正隆、藤村富美男、小松方正、金子信雄、ユセフ・トルコ、渡辺文雄、中村錦司、安部徹、織田あきら、野坂昭如、橘麻紀、金沢碧、菅原文太、三船敏郎
にヒットした、橋本プロダクション「八甲田山」、角川映画の「人間の証明」「八つ墓村」は一本立て興行でお金をかけた大作映画だったのです。洋画に興行成績を追い抜かれて、ジリ貧になる中で、面白い映画を作るためにはお金をかけねばならない、という感じの風潮になって、現場の方からも「二本にかける予算を一本に当てた方がいい映画が作れるのではないか」という声が上がり始めた。
最も東映はこの後も二本立て興行を行ないますし、「男はつらいよ」や角川映画も二本立て興行を行ないます。ただ、この時期にプログラムピクチャー体制は終わりを告げたと言ってもいいでしょう。この時期、東映のやくざ映画の添え物として低予算のポルノ映画が多く作られました。くだらない作品が多かったらしいですが、実は助監督を監督に昇進させる、という意味合いもあったようです。60年代にはそうした低予算映画から深作欣二、佐藤純彌、中島貞夫などの後世に大活躍する監督が出てきたわけですが、70年代にはすっかり崩れてしまい、テレビやVシネマにそうした機会は流れていきます。一方、プログラムピクチャーで育った監督達も大作映画に対応せざるを得なくなり、中島貞夫も積極的に大作映画の世界に飛び込んでいきます。
関西最大の暴力団中島組の組長、佐倉一誠(佐分利信)の快気祝いが盛大に行なわれた。政界、財界から多くの快気祝いが集まったがこれは「手切れ金」のようなものであった。佐倉の体調不良と若頭の辰巳の死亡で中島組の求心力は弱まっていた。古参幹部の片岡(成田三樹夫)と辰巳の若衆で東大出のインテリである松枝(松方弘樹)は関東進出の計画を練る。松枝の指揮の元、総会屋の樽井(藤岡琢也)は男前の若宮(にしきのあきら)や柴田(星正人)を連れて横浜に「桜商事」という会社を設立する。目的は「ジャパンシップ」の乗っ取りへの介入だった。
一方、関東では関西暴力団の進出を食い止める為に関東同盟が結成されていた。理事長は右翼の大物、大山規久夫(内田朝雄)を後ろ盾にした大石(三船敏郎)。彼は強力なリーダーシップで野合同然だった関東同盟を率い、「桜商事」の介入を打破する。その過程で若宮は撃たれて死亡する。樽井は報復を誓うが片岡によって関東撤退を余儀なくされる。
一方、中島組では空席となった若頭の席を巡って片岡と松枝が対立していた。松枝は武闘派の天坊(菅原文太)を引き込んで暴力と謀略を組み合わせて、勢力を伸ばしていた。佐倉は若頭に松枝を指名。松枝は関東進出を積極的に進める。天坊は関東同盟の急先鋒であった真田(小松方正)を射殺する。松枝は佐倉の娘婿の一宮(高橋悦史)の友人である姉小路尚子(岸田今日子)の力を借りて高級秘密クラブを作る。政財界の大物の接待用にである。
東南アジアの軍事国家の首領、アナンタが来日した。国営石油開発の利権をめぐって関東同盟、中島組の接待攻勢が行なわれた。しかし女好きの彼の目にとまったのは一宮の病院の看護婦、かおる(金沢碧)であった。彼女には柴田という恋人がいたのだが。。
登場人物も多いし、ストーリーも複雑でなんともしんどい映画です。豪華キャストだけどね。原作は飯干寛一になっていますが、ネタは「やくざ戦争 日本の首領」で使い切ってしまい、この作品は高田宏治の完全なオリジナル。スポーツ新聞に小説として連載されたからか、実際に起こった事件のパロディが散りばめられています。ケレン味たっぷりの高田宏治らしい脚本なんですが、ドラマが少ないので感情移入する人物がいない。野坂昭如演じる殺し屋とか時代に押しつぶされて死んでしまう若いヤクザ達とかを中心に描いた方がよかったと思う。気を吐いたのは岸田今日子。後半の松方とのロマンスは映画に彩りを添えた。「わたくし、男に生まれたかったの」と男顔負けの度胸でクラブを切り盛りしていく姿は、背筋がしゃんと伸びる思いだ。
看護婦、かおるのエピソードはデヴィ夫人のパロディです。銀座のホステスだった彼女はインドネシア大統領のスカルノの夫人になります。彼女にも実は右翼の手先で共産党に興味を持っていたスカルノの情報を日本とアメリカに逐一、報告していたという噂がありますね。本当かどうか知りませんが。この映画はそうした、ホンマかいなと思う政財界の陰謀をドラマに使っています。リアルと言えばリアルなんだが、やはり同時代に見てこそ面白いというもので時代を越えた作品とは到底、言い難い。
近代的な合理組織になった暴力団の組織における組長はかつてのような「オヤジ」ではなく、リーダーである。リーダーがリーダーであり続ける為には合理的で正しい判断を下さねばならない。佐倉と大石はその世界に生き続ける。その中では情などを持つことはなく、意地汚いほどに権力にしがみつく覚悟が必要なのだろう。佐倉を演じる佐分利はそうした覚悟のカッコ悪さをも魅力にしている。それに対して大石を演じる三船は大物らしさは漂わせているんだが、ドロドロとしたものがなくて堂々としすぎてる。ヤクザらしくないんだよな。脇に佐藤慶とか小池朝雄みたいなうまい役者がいるんで違和感がでちまう。
佐倉と大石の対立は決着つかずに「日本の首領 完結編」に続いていきます。
監督:中島貞夫 脚本:高田宏治 企画:俊藤浩滋、日下部五朗、田岡満、松平乗道 原作:飯干寛一 撮影:増田敏雄 美術:佐野義和 音楽:黛敏郎 擬斗:上野隆三 進行主任:長岡功 ナレーション:森山周一郎
出演:佐分利信、三船敏郎、松方弘樹、成田三樹夫、東恵美子、折原真紀、高橋悦史、二宮さよ子、野口貴史、鈴木康弘、西田良、星正人、志賀勝、福本清三、松本泰郎、成瀬正、にしきのあきら、藤岡琢也、田口計、小沢栄太郎、嵐寛寿郎、内田朝雄、小池朝雄、五十嵐義弘、佐藤慶、岩尾正隆、藤村富美男、小松方正、金子信雄、ユセフ・トルコ、渡辺文雄、中村錦司、安部徹、織田あきら、野坂昭如、橘麻紀、金沢碧、菅原文太、三船敏郎
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