今日は中島貞夫の「やくざ戦争 日本の首領(ドン)」。1977年に作られた作品です。中島貞夫と並ぶ実録のエースである深作欣二はこの年に撮った「北陸代理戦争」が最後の実録になりました。この頃になると実録ヤクザ映画もいよいよ行き詰まりを迎えて、末期は行き過ぎた残酷描写が飽きられていきます。警察もヤクザ賛美を助長させるものとしていい顔をしないし、ヤクザ達も自分達のドラマが題材にされることから一般市民から白い目で見られるようになることを嫌がり始めました。後に「北陸代理戦争」のモデルとなった人物が映画公開後に射殺される事件もありました。が、一番の欠点はそんなにドラマとなる物語というのは実際にない、ということだったのでした。

 「やくざ戦争 日本の首領」は山口組内部の田岡組長と若頭の地道の対立をモデルにした飯干晃一(「仁義なき戦い」の原作者)の小説が原作になっています。実録やくざ映画に向いている素材だと言えますが脚本の高田宏治はこれを全国制覇を果していく組長のドラマとしてではなくて、組長の「首領」としての一面と「父」としての一面を描いて、その苦悩を描きました。つまり「ゴッドファーザー」のような映画を作ろうとしたのです。従来のヤクザ映画と違ってドンパチのシーンも少ないし、あまり人が死にません。

 組長の佐倉一誠(佐分利信)率いる中島組は西日本最大の組織を誇る暴力団であった。組長を支えるのは若頭の辰巳(鶴田浩二)である。辰巳は佐倉を日本一の親分にしようと日夜、奮闘していた。彼のやり方は従来のヤクザの考えによるもので、腹心の迫田(千葉真一)は圧倒的な暴力で次々に版図を広げていった。いずれ、雌雄を決せねばならない東京の錦城会との対決は間近であった。ある日、佐倉は有力企業の幹部・島原(西村晃)から社長のスキャンダルもみ消しの依頼を受ける。これがきっかけになって中島組は政界、財界との結びつきを強めていく。

 首領である佐倉にも二人の娘がいた。いずれも血のつながりのない娘であるが、佐倉は娘を愛していた。姉の登志子(二宮さよ子)は青年医師の一宮恭夫(高橋悦史)と恋をしていた。妹の真樹子(折原真紀)は自由奔放に育ってしまい、組員と恋に落ちたり、麻薬を吸ったりと佐倉の頭痛の種であった。登志子の結婚も一宮の親が結婚に難色を示していた。一宮を気に入っていた佐倉は登志子を島原の養女にすることで結婚式をあげた。結婚式には右翼の大物である大山規久夫(内田朝雄)や政界の実力者小野伴水(神田隆)を始めとする政界、財界の大物がずらりと顔をそろえた。その中には錦城会の幹部である石見(菅原文太)の姿もあった。

 右翼の大山は左翼勢力に対抗する為に石見と佐倉に連合して一つのヤクザ組織を作ることを呼びかけるが、佐倉は拒否。遂にコンビナートの利権をめぐっての抗争が始まった。しかし辰巳のやり方は限界で経済界に進出していた若衆の松枝(松方弘樹)はそのやり方に危惧をいだいた。辰巳の腹心である迫田は石見を襲撃するが失敗。一般市民を巻き込む事件を起こし、収監される。佐倉は迫田を破門しようとするが、辰巳は「組のためにやった」とあくまでかばおうとする。二人の間には亀裂が走り始めていた。。

 予告編を見ると「日本版ゴッドファーザー」のスーパーが目を引きますが、「ゴッドファーザー」によく似たシーンが出てきます。小池朝雄が愛人の首を抱いて吃驚するシーンは馬の生首のシーンに似てますしね。やたらに重たい佐分利信の演技もマーロン・ブランドを意識したものでしょう。佐分利信はヤクザ映画が始めてですが、貫禄満点の押し出しでヤクザの親分らしい風格を出しています。音楽がとてもいいです。ゴッドファーザーも耳に残る物悲しい音楽ですが、黛敏郎の音楽もゆったりとして重厚な感じで負けてません。オーケストラでお金もかかったみたいですが贅沢な感じが味わえて、映画に深みを出しています。

 ヤクザという組織は擬似血縁組織です。組員は組長を「オヤジ」と慕い、親父のために命を投げ出します。組長は組員を「子供」と考えて、大切にする。しかし組長にも「血縁家族」の父としての顔がある。この対立がテーマになっています。若頭の辰巳は仁侠映画のエースだった鶴田浩二が演じていますが、古いヤクザの典型で佐倉を「オヤジ」と慕っている。一方、女婿の一宮は「義理の父」として佐倉を尊敬している。時代の移り変わりで鶴田的な価値観は古びてしまい、ヤクザ一家は近代的な合理的な組織に変化せねばならなくなった。辰巳のやり方ではヤクザ組織はつぶれてしまう。これからのヤクザ組織は佐倉に忠誠を誓うことが絶対ではない組織になるのだ。辰巳に変わり、佐倉を守るのは佐倉ファミリーである一宮であることを一宮自身が意識するところで映画は終わる。ここまでの構図をきっちりと手を抜くことなしに書き上げた高田宏治の力はたいしたものである。彼の最もいい仕事の一つだと思う。

 ただ惜しむらくは鶴田浩二が出てたために仁侠映画のテイストが出てしまい、辰巳の悲劇ばかりが目立つ映画になってしまったこと。鶴田浩二はやっぱりうまいからね、目立ちすぎてしまう。最後の「字がわからへん・・」とうめくシーンなんか凄い演技だったもん。高橋悦史もいい役者なんだが、少し出番が少ない。それから火野正平はいらん。現場は一本立てを主張して二時間ほどの映画にしてもっとお金をかけてくれと主張してたようですが、従来のプログラムピクチャーとしての時間と製作費しか用意されませんでした。これだけでも充分面白いのですが、もっとじっくり見たかった。せっかくの豪華キャストが勿体無い。なお、「やくざ戦争 日本の首領」はヒットし、3部完結のシリーズものになりました。次回作の「日本の首領 野望編」は同年に一本立てで公開されました。

監督:中島貞夫 原作:飯干寛一 脚本:高田宏治 企画:俊藤浩滋、田岡満、日下部五朗、松平乗道 撮影:増田敏雄 美術:井川徳道 音楽:黛敏郎、伊部晴美 擬斗:上野隆三 ナレーション:森山周一郎
出演:佐分利信、鶴田浩二、松方弘樹、成田三樹夫、野口貴史、林彰太郎、尾藤イサオ、木谷邦臣、小林稔持、矢吹二朗、松本泰郎、福本清三、成瀬正、品川隆二、小池朝雄、鈴木康弘、渡瀬恒彦、曽根晴美、片桐竜次、今井健二、志賀勝、西村晃、金子信雄、神田隆、梅宮辰夫、地井武男、岩尾正隆、中村錦司、田中邦衛、火野正平、内田朝雄、市原悦子、橘麻紀、待田京介、二宮さよ子、高橋悦史、折原真紀、絵夢、菅原文太、東恵美子、広瀬義宣

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