今日は世間を沸騰させ続けてる「華氏911」。初日にガーデン梅田にて満席(立ち見もいた)で見ました。監督は皆様ご存知のマイケル・ムーア。映画の内容もさることながら、ディズニーが配給を止めさせようとしたり、カンヌでパルムドールを取っちゃうなど公開前からもう評判はうなぎのぼり。ふたを開けてみればアメリカでも大ヒットで日本でも公開初日から超満員長蛇の列。京都の京極弥生座、ここは閑古鳥が巣作って卵暖めてる劇場なんだがここも連日満員で閑古鳥は卵をおいてどこかにいっちまった。前作「ボーリング・フォー・コロンバイン」も話題になったけどここまでじゃなかった。

 8月14日。先行上映と銘打って恵比寿ガーデンが二館体制で上映したが、14、15日両日ともに2時半の時点で整理券の配布終了。整理券配布時には300人の行列があったと言う。世間の盛り上がりは911には幾分か足りないが「華氏814」並みの沸騰であったのだ。

 重政隆文氏が「映画の本の本」で中野翠の言葉を紹介している。対象は「学校」と「シンドラーのリスト」がアカデミー賞を取った(「学校」は日本アカデミーね)ことに関するものなのだが、「華氏911」にもぴったり当てはまるので引用しましょう。
 
こういう作品が称賛される状況って、私にはあんまりいいこととは思えなくて。映画界のある種の衰弱を象徴しているような気がして。
 こういう作品というのは、一口で言うと「映画好きの人間の口を重くさせ、逆に映画はあまり好きではないが社会問題には興味があるという人間の口を滑らかにしてしまう−そういうタイプの映画」という意味である(「犬がころんだ」93ページより)

 ブログを見渡しても明らかであるが、「華氏911」に関しては普段全く映画について触れない人がいっぱい感想を書いている。それに比べて従来の映画好きってのはどこか、口が重い。映画というものは複雑で芸術と娯楽が入り混じったもので、はっきりどちらとは判別しにくい。他の芸能もやはり大なり小なり入り混じったもんなんだけど映画の場合は芸術というのには金がかかりすぎるし、娯楽というのには収益率が低過ぎて、より難しい。

 だからいろんな映画作品ってのがあって映画好きってのは芸術面と娯楽面を見て評価を下すわけです。しかしこの「華氏911」ってのは、ヒトラーや大日本帝国が作った映画よりも、純生なプロパガンダ映画でしかも時代と添い寝した作品です。映画作品としての評価がしにくい。ドキュメンタリーとしての編集の面白さ、組み立てには見るところはあるけど、その主義主張から切り離しての評価は無理である。つまり、芸術の側面がすっぽり抜けてるのだ。だから映画ファンは戸惑って、奥歯に物が挟まったような言い方しかできないのだ。従来の”普段全く映画について触れない”ブログとはすれ違いが起こるのだ。彼らは映画の感想を書きたいんじゃなくて、”社会問題”を論じたいんだから。

 はっきり言えば「華氏911」は森達也の言うようにこの映画がやったことは本来ならメディアがやるべきことをアメリカのメディアがだらしないから、映画でやっちゃったわけである。マイケル・ムーアはそれを意識的にやってる。だからアカデミーを蹴ってまで大統領選までの間にテレビ放映することを決めちゃったのだ。ムーアの観客対象自体が映画ファンを対象にしていない。 

 私はこの手の映画は嫌いじゃないし、ムーアの本も読んでるし、彼の作った映画は見てるし、(感想にも「ロジャー&ミー」と「ボーリング・フォー・コロンバイン」を挙げている)アメリカ大統領選にもすごく興味も持っている。実は先日も見て来たんだけど、劇場を出る時にはやはり「ブッシュ、討つべし!」と思いますわね。でもね、こんな意見もあるんですよ。

http://www.shakaihakun.com/data/vol032/main01.html

そもそもこの映画はアメリカ大統領選に向けて作られたもので選挙人登録もできない私達には何の関係もありません。だって私達がアシュクロフト、ラムズフェルドは地獄の火で焼かれろ!と叫んでも、中国や韓国で小泉の人形燃やしてる下品で意味のない行為と同じことです。

 町山智浩氏のブログにムーアのインタビューが載っていますが、その中でムーアは外国の記者の「アメリカ以外の国の人々が、ブッシュ打倒のために何かできることはありませんか?」という質問に対して「ありません」と断定したあとに「これは僕らの問題だ。アメリカ人が自分の力で解決しなければならない」と続けています。アメリカってのはヤマタノオロチの化け物でブッシュという首もあれば、KKKという首もあれば、マイケル・ムーアって首もある。アメリカの敵は結局、アメリカなのだ。この国はそうやって大きくなってきた。傲慢な野郎達なんだよ、全く。我らは大統領選を見守る、よき観客であればいいのだ。言い換えるとそれしかできない。

 ではこの映画から”アメリカ以外の国の人々”は何を学ぶのか?私はやはり思想云々よりもそのムーアの姿勢からだと思う。彼が始めて撮った「ロジャー&ミー」は自分の故郷からGMが撤退するという状況を受けて自分のできることは何か?ということを悩みながら撮った作品です。彼の姿勢は有名になった今も変わっておらず、困難な状況において自分ができることを考えて「華氏911」を撮っています。我々が家族に対して、隣人に対して、地域に対して、国に対してできることは何か。そうしたムーアの生真面目さに学ぶところは多い。それが私の考える”「華氏911」の正しい見方”である。

監督、製作、脚本:マイケル・ムーア 製作:キャスリーン・グリン、ジム・チャルネッキ 編集:クリストファー・スワード、T・ウッディ・リッチマン 撮影:マイク・デジャレ
出演:ブリトニー・スピアーズ、マイケル・ムーア、アル・ゴア、ブッシュスタッフ(パウエル、ライス、ラムズフェルド、アシュクロフト、チェイニー、ウォルフォウィッツ他)オサマ・ビン・ラディン、サダム・フセイン、バンダン・ブッシュ、シニアウ・ブッシュ、ジェフ・ブッシュ、ジョージ・W・ブッシュ、トニー・ブレア、モロッコの猿、パートで海岸線を守る警官などなど多数

参考
町山智浩氏のブログ
http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/
ムーアのインタビュー(7月19日)
http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20040719

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