今日、紹介するのは10日から東映系で公開された「69 sixty nine」。村上龍の自伝小説の映画化です。主演は妻夫木聡で監督は「BORDER LINE」の李相日で脚本は宮藤官九郎です。
この映画は1969年の佐世保が舞台になっています。69年というのは今から35年前という、大昔ですがこの年は実に様々なことが起こってます。パンフと昭和・平成家庭史年表を参考にしますと。。
・奥崎謙三が皇居でパチンコ玉を打つ
・PLO議長にアラファトが就任
・永山則夫の逮捕
・ド・ゴール、フランス大統領を辞任
・柏戸が引退
・市川雷蔵が死去
・ロマン・ポランスキーの嫁さんが惨殺される
・カダフィ大佐、革命成就
・ソニー、ビクターが共にビデオを発売
・プロ野球の八百長事件発覚
・ドリフの「全員集合」がスタート
・「男はつらいよ」公開
・シンナー、大流行
と挙げれば、もうキリがないわけです。なお、この年には安田講堂事件があり、東大の受験が中止されました。翌年の70年は安保の切り替わりの年で運動が最高潮になると思われていたのですが、この事件をきっかけに学生運動は低調となり、内ゲバに明け暮れます。とまあ、そういう時代だったのです。佐世保はこの前年、アメリカの原子力空母のエンタープライズの入港を巡って学生と機動隊が衝突する「エンタープライズ事件」が起こっています。映画にもエンタープライズ事件の生き残りを称する大学生が出てきますが、まだまだ町全体がピリピリしておったのでしょう。
高校生のケン(妻夫木聡)は「楽しく生きる」が信条のハッタリ野郎。ハッタリをかます時に標準語で喋る。彼は友人のアダマ(安藤政信)、岩瀬(金井勇太)と共に映画、演劇、ロックが一体となった「フェスティバル」を開催しようとする。彼には夢があった。映画を撮る名目で北高のレディ・ジェーンこと松井和子(太田莉菜)に近づこうとしていたのだ。早速、中学時代の親友である大滝(加瀬亮)に8mを借りに行く。が、大滝は学生運動に没頭しており、革命的な題材を取らねばビデオは貸せないと言い出す。行きがかり上、突然高校のバリケード封を言い出してしまうケン。大滝、成島(三浦哲郎)、指紋がない中村(星野源)、ハゲのマスガキ(柄本佑)を連れて、バリ封を敢行するケン達。ケンやアダマにすれば、「楽しいから」でやったバリ封だが学校、警察を巻き込む大騒動になってしまう。。。
映画のテンポもいいし、ストーリーもすごく面白い。展開も早いし、キャストも凄く多いんだが一人一人を生き生きと描く宮藤官九郎の脚本はさすがだと思う。楽観的なケンに慎重なアダマの対比も面白い。脇役では校長室で○ン○をしてしまう中村と200円しか持ってないアダチさん(演じるのは和製ブシェーミとの評価も高い森下能幸!)と全力で生徒と戦う相原先生@帝都大戦が笑えた。ただ、後半がやや弱い。そこが無ければもっといい映画になった。ラストはいいけどね。
キャストが凄いのだ。妻夫木に安藤政信はもちろんのこと、金井勇太(「学校?」「さよなら、クロ」)、加瀬亮(「ロックンロールミシン」)、柄本佑(柄本明の息子「美しい夏キリシマ」)と主演経験ありの日本映画の星ばっか出ておるのだ。池脇千鶴と同棲中の新井浩文まで出ている。妻夫木とは「さよなら、クロ」「ジョゼと虎と魚たち」に引き続いて3回目の共演ですな。シリアスな役柄からこういった、笑える役と実に幅広いですな。まあ、不良役がすごく多いけど。マドンナを演じたのはこれが映画デビューとなる太田莉菜。全校の憧れの的にしてはやや、役不足と思えたが笑顔が可愛いのでまあよしとしよう。しかし、その友人の揺れる胸が魅力の佐藤ユミが三津谷葉子というのは不足なしだが、なんか勿体無いような気がする。
「半落ち」で映画に回帰した柴田恭平は出番が少ない割には飄々とした親父を好演。國村準、岸部一徳、小日向文世、豊原功輔もそれぞれ出番は少ないが、一人一人が当時の社会状況を代表するような役柄で映画に深みを出している。特にホームランバーアイスを片手にケンを追い込んでいく國村準はめちゃくちゃいい。それから「キューティーハニー」では全然だった村上淳がとっても正しい使われ方をされている。「トマトジュースがノメナインデス」と弱気に呟く番長を「ああん?」と怒鳴って、黙り込ませるシーンはこの人でなきゃ、成立せんだろ。最後に、井川遥だな。これは見てのお楽しみ。
この映画の監督、脚本、主演は共に70年代以降の生まれで69年という時代を知りません。映画にはリアリティが重要になってきますので、69年当時の風俗が多く映画に盛り込まれていますが、69年当時の再現は目的になっていません。監督は「69年をリアルに再現するのではなく、この時代を借りながら今を生きる感じで書いていた」
と語っています。当時の17歳にも青春があったように今の17歳にも青春はあるのです。時代が変わってもその青春に違いはないだろう、と監督のこの映画に対する思いはここから出発しています。
映画の中でケンの行動をきっかけにして全校にマスゲーム訓練と放課後の校庭掃除の廃止を訴える声があがるシーンがあります。このシーンは映画の中でもやや異質ですが、監督の中に学生運動に対する考えが出ていると思います。後に悲惨な内ゲバばかりがイメージとなった学生運動ですが、その背景には当時の学校側の高圧的な管理教育もやはりありました。そもそもの学生運動は学費値上げ反対から始まっています。そうしたものをわずかでも扱っているところはやはり誠実だと思う。
オープニングが非常に日本映画らしくないポップな感じで非常にいい。映画全体の雰囲気は「スナッチ」みたいな感じ。妻夫木人気で若い女性客が中心の入りになりそうですが、なかなか見応えのある作品になっています。安藤政信の高校生役はもういくら何でも限界はありますが、妻夫木もかなり無理があると思います。ラストのケミストリーの歌ですが、最初は山下達郎の歌かと思いました。
監督:李相日 脚本:宮藤官九郎 製作:黒澤満 原作:村上龍 美術:種田陽平
キャスト:妻夫木聡、安藤政信、金井勇太、水川あさみ、太田莉菜、三津谷葉子、星野源、加瀬亮、三浦哲郎、井川遥、森下能幸、柴田恭兵、國村準、柄本佑、岸部一徳、小日向文世、原日出子、新井浩文、豊原功輔、嶋田久作、峯村リエ
この映画は1969年の佐世保が舞台になっています。69年というのは今から35年前という、大昔ですがこの年は実に様々なことが起こってます。パンフと昭和・平成家庭史年表を参考にしますと。。
・奥崎謙三が皇居でパチンコ玉を打つ
・PLO議長にアラファトが就任
・永山則夫の逮捕
・ド・ゴール、フランス大統領を辞任
・柏戸が引退
・市川雷蔵が死去
・ロマン・ポランスキーの嫁さんが惨殺される
・カダフィ大佐、革命成就
・ソニー、ビクターが共にビデオを発売
・プロ野球の八百長事件発覚
・ドリフの「全員集合」がスタート
・「男はつらいよ」公開
・シンナー、大流行
と挙げれば、もうキリがないわけです。なお、この年には安田講堂事件があり、東大の受験が中止されました。翌年の70年は安保の切り替わりの年で運動が最高潮になると思われていたのですが、この事件をきっかけに学生運動は低調となり、内ゲバに明け暮れます。とまあ、そういう時代だったのです。佐世保はこの前年、アメリカの原子力空母のエンタープライズの入港を巡って学生と機動隊が衝突する「エンタープライズ事件」が起こっています。映画にもエンタープライズ事件の生き残りを称する大学生が出てきますが、まだまだ町全体がピリピリしておったのでしょう。
高校生のケン(妻夫木聡)は「楽しく生きる」が信条のハッタリ野郎。ハッタリをかます時に標準語で喋る。彼は友人のアダマ(安藤政信)、岩瀬(金井勇太)と共に映画、演劇、ロックが一体となった「フェスティバル」を開催しようとする。彼には夢があった。映画を撮る名目で北高のレディ・ジェーンこと松井和子(太田莉菜)に近づこうとしていたのだ。早速、中学時代の親友である大滝(加瀬亮)に8mを借りに行く。が、大滝は学生運動に没頭しており、革命的な題材を取らねばビデオは貸せないと言い出す。行きがかり上、突然高校のバリケード封を言い出してしまうケン。大滝、成島(三浦哲郎)、指紋がない中村(星野源)、ハゲのマスガキ(柄本佑)を連れて、バリ封を敢行するケン達。ケンやアダマにすれば、「楽しいから」でやったバリ封だが学校、警察を巻き込む大騒動になってしまう。。。
映画のテンポもいいし、ストーリーもすごく面白い。展開も早いし、キャストも凄く多いんだが一人一人を生き生きと描く宮藤官九郎の脚本はさすがだと思う。楽観的なケンに慎重なアダマの対比も面白い。脇役では校長室で○ン○をしてしまう中村と200円しか持ってないアダチさん(演じるのは和製ブシェーミとの評価も高い森下能幸!)と全力で生徒と戦う相原先生@帝都大戦が笑えた。ただ、後半がやや弱い。そこが無ければもっといい映画になった。ラストはいいけどね。
キャストが凄いのだ。妻夫木に安藤政信はもちろんのこと、金井勇太(「学校?」「さよなら、クロ」)、加瀬亮(「ロックンロールミシン」)、柄本佑(柄本明の息子「美しい夏キリシマ」)と主演経験ありの日本映画の星ばっか出ておるのだ。池脇千鶴と同棲中の新井浩文まで出ている。妻夫木とは「さよなら、クロ」「ジョゼと虎と魚たち」に引き続いて3回目の共演ですな。シリアスな役柄からこういった、笑える役と実に幅広いですな。まあ、不良役がすごく多いけど。マドンナを演じたのはこれが映画デビューとなる太田莉菜。全校の憧れの的にしてはやや、役不足と思えたが笑顔が可愛いのでまあよしとしよう。しかし、その友人の揺れる胸が魅力の佐藤ユミが三津谷葉子というのは不足なしだが、なんか勿体無いような気がする。
「半落ち」で映画に回帰した柴田恭平は出番が少ない割には飄々とした親父を好演。國村準、岸部一徳、小日向文世、豊原功輔もそれぞれ出番は少ないが、一人一人が当時の社会状況を代表するような役柄で映画に深みを出している。特にホームランバーアイスを片手にケンを追い込んでいく國村準はめちゃくちゃいい。それから「キューティーハニー」では全然だった村上淳がとっても正しい使われ方をされている。「トマトジュースがノメナインデス」と弱気に呟く番長を「ああん?」と怒鳴って、黙り込ませるシーンはこの人でなきゃ、成立せんだろ。最後に、井川遥だな。これは見てのお楽しみ。
この映画の監督、脚本、主演は共に70年代以降の生まれで69年という時代を知りません。映画にはリアリティが重要になってきますので、69年当時の風俗が多く映画に盛り込まれていますが、69年当時の再現は目的になっていません。監督は「69年をリアルに再現するのではなく、この時代を借りながら今を生きる感じで書いていた」
と語っています。当時の17歳にも青春があったように今の17歳にも青春はあるのです。時代が変わってもその青春に違いはないだろう、と監督のこの映画に対する思いはここから出発しています。
映画の中でケンの行動をきっかけにして全校にマスゲーム訓練と放課後の校庭掃除の廃止を訴える声があがるシーンがあります。このシーンは映画の中でもやや異質ですが、監督の中に学生運動に対する考えが出ていると思います。後に悲惨な内ゲバばかりがイメージとなった学生運動ですが、その背景には当時の学校側の高圧的な管理教育もやはりありました。そもそもの学生運動は学費値上げ反対から始まっています。そうしたものをわずかでも扱っているところはやはり誠実だと思う。
オープニングが非常に日本映画らしくないポップな感じで非常にいい。映画全体の雰囲気は「スナッチ」みたいな感じ。妻夫木人気で若い女性客が中心の入りになりそうですが、なかなか見応えのある作品になっています。安藤政信の高校生役はもういくら何でも限界はありますが、妻夫木もかなり無理があると思います。ラストのケミストリーの歌ですが、最初は山下達郎の歌かと思いました。
監督:李相日 脚本:宮藤官九郎 製作:黒澤満 原作:村上龍 美術:種田陽平
キャスト:妻夫木聡、安藤政信、金井勇太、水川あさみ、太田莉菜、三津谷葉子、星野源、加瀬亮、三浦哲郎、井川遥、森下能幸、柴田恭兵、國村準、柄本佑、岸部一徳、小日向文世、原日出子、新井浩文、豊原功輔、嶋田久作、峯村リエ
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