今日、紹介するのは「世界の中心で愛を叫ぶ」。見に行こうか、行くまいか悩んでいたのですが、日曜日のお昼にこっそりと行って来ました。常にガラガラの映画館なんですが、半分ほどの入りで女子中学生で館内はきゃぴきゃぴ(死語)しておりました。で、映画の感想なんですが、まあ及第点です。劇場で見ても損はないと思います。これはやはり監督の行定勲による力ってのが大きい。師匠の岩井俊二に似たような作品ばかり撮ってた監督ですが「GO」で軽さを覚えてから、「ロックンロールミシン」「きょうのできごと」を経て、面白い映画を撮れるようになったと思う。そういう作品の質ってのは割りと高いと思います。しかし、俺には面白くなかった。というのも、ディテールがボロボロでリアリティが全く無い。お話としては面白いんだが、全く人の心を打たないんである。

 この日は続けて、「21グラム」を見たのだが、日米の差というものをまざまざと感じてしまった。私は一応、日本映画ファンなので日本映画を擁護したいとは思う。が、今年の前半で私が満点をつけられる作品って「下妻物語」だけである。それに比べて外国映画の方はどうか。「21グラム」「ラブ・アクチュアリー」「スクール・オブ・ロック」「ビッグ・フィッシュ」「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」と名作揃いである。ドイツにも「グッバイ!レーニン」あり、香港に「ツインズ・エフェクト」そして韓国に「殺人の追憶」「シルミド」あり、である。日本映画だけ、完全に遅れをとっておる。外国で公開されるようなその国で大ヒットを記録した映画である、という事情を差し引いても、日本映画の貧弱さは感じてしまう。ややこしいので、ここでは「21グラム」だけを例にとる。ドラッグ中毒からよき夫を得て、今は子育てに熱中する女、心臓病を患い、移植手術を待つだけの人生に飽きた大学教授、昔はヤクザだったが今はキリスト教に目覚め、酒もドラッグもやらずに真面目に生きているトラック運転手。主人公の様々な背景について、ナレーションで説明することなく、丁寧に細かいカットを積み上げて説明していくのである。そこから、リアリティもでてくるし、後で起こる感情の葛藤も理解できるのである。それに比べて「世界の中心で愛を叫ぶ」というのは病気の為に引き裂かれる男女を描いた、しんどい映画なのに、まるでリアリティがないのだ。大体、白血病で死にそうな少女がぽちゃぽちゃしてるのだぞ。「21グラム」のレベルまで持っていけとは言わん。キャリアもギャラも全然違う。元気な頃と病気になってからがまるで同じ体形、いやむしろ太ってないか?頭を坊主にしますた、ってそういう問題じゃないぞ。

 実は主演の長澤まさみはこの時期に「深呼吸の必要」という映画を掛け持ちしていた。ロケ地は沖縄で、実際に作業なんかもやってたらしいからしっかり日焼けして、しかもご飯がおいしいからと太ってしまったらしい。当然ながら監督は激怒。シーンがつながらんのだから、怒るのは当然だろう。思うに頭を剃ったのは、反省の意味からだろう。大体、坊主にする意味ってこの映画であんまりなかったと思う。一部の尼さんマニアが喜んだだけ。やる気を見せたってそれより前にやることあんだろ、と思ってしまう。

 それからもう一つ。大沢たかおが過去のことを思い出しながら高校を歩き回るシーンがあるんだが、どうやって学校に入ったんだ?休日の学校をこんな風に自由にうろうろできんのか?卒業生なら、学校には入れてくれるだろうが、教室に入ったり、土足で体育館とやりたい放題ってのはどんな学校なんだと思ってしまう。普通はこの学校には警備員おらんのか?細かいことかもしれんが、神経質なほどこの手のディテールにこだわらんと感動作なんか作れんぞ。ただでさえ、あざとすぎる物語なんだから。しらけるんです。あともう一つ挙げておくと、86年という具体的な年が舞台になってる割には、時代性を感じさせるものがほとんどなかった。佐野元春と渡辺美里にウォークマンだけってねえあなた。別に若王子さん誘拐とか土井書記長とか出せとは言わんが、あまりにも寂しいではないか。

 結局、脚本がチープなんである。まるで練りこまれてないし、シーンごとの組み立てしか頭にないから、全体を通して見るとまるでちぐはぐ。原作は読んでないから知らんのだが、何でもよく売れてるらしいですな。それだけで客が来るから、脚本はエエ加減でもいいと言うわけですか。いい商売だな。大体、このパンフも出演者、スタッフにしつこく原作読んだか、と聞きまくってるがそれがそんなに重要か?映画で勝負するんじゃなくて、原作の知名度で勝負かけてるのが見え見えだぞ。

 ここまで悪口ばかり書いてきたが、行定と撮影の篠田昇の几帳面なまでの画面作りは実に素晴らしい。それとキャストの熱演が救い。長澤まさみはボロカスに書いたが、まあ演技自体はよかったです。何ともいえずにのんびりとした口調で普通の女の子らしさが出てたと思う。その普通の女の子が難病にかかるというからドラマなんだから、ここはこれでいいのだ。全然知らんで全く注目してなかった森山未來もよかったねえ。深刻すぎることもなく、軽い感じで演技を楽しんでた。要所要所ではビシリと決めてたしね。山崎努が出てなかったらこの映画はどうなってただろうと思う。彼が出るだけで画面がしまるのだ。仏頂面の男に何か囁き、大笑いさせるシーンは彼でなかったらできないシーンだろう。

 長澤まさみにしても、この映画は勝負の映画だったと思います。第5回東宝シンデレラに選ばれて、映画出演本数もそこそこの数になった割には世間的な知名度は非常に低い。ドラマにあんまり出さずに映画女優に育てようというのが東宝の考えだろうが、第4回東宝シンデレラの野波麻帆も立派な映画女優だが知名度は低い。映画女優というのが死語になりつつある現在、その方針はしんどいだろうね。東宝にしても、この映画で長澤まさみを主演させるのは勝負だったんだろう。原作に柴咲コウ、大沢たかお、平井堅でリスクヘッジはしての勝負だけどね。ただ本当にしんどいのはこれからだろう。次の作品が彼女の価値を決めるだろう。可愛さでは石原さとみに劣るし、演技では宮崎あおいに遠く及ばん。ただ。。この映画まで気づかなかったが。。すげえ巨乳じゃねえか。それだけでもスクリーンで確かめろ。(そんなオチかい)
監督:行定勲 脚本:坂元裕二、伊藤ちひろ、行定勲 撮影:篠田昇 美術:山口修
キャスト:森山未來、長澤まさみ、宮藤官九郎、杉本哲太、マギー、尾野真千子、岡元夕紀子、近藤芳正、木内みどり、森田芳光、渡辺美里、田中美里、ダンディ坂野、大森南朋、山崎努、柴咲コウ、大沢たかお、津田寛治

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