今日、紹介するのはマイケル・ムーアのデビュー作の「ロジャー&ミー」。マイケル・ムーアも凄いですね。カンヌ国際映画祭のパルムドールまで撮っちゃうだもん。正直、今一番期待してる作品です。日本では夏頃に公開になるみたい。えっと話題がそれました。本作品は1989年の作品です。彼の故郷であるフリントでの工場閉鎖問題を題材にしたドキュメンタリーです。

 彼の育ったフリントは世界最大級の車メーカーであるGMの発祥の地でもあり、製造拠点でもある工場の町でした。所謂、GMの企業城下町で市民の多くはGMの工場で働いていました。ムーアの父親もその一人でした。いや父親だけでなく、親戚も友人も兄弟も自分以外は全員、GMの会社に勤めていたのです。子どもの頃から、政治に興味のあったムーアは大学中退後にフリントで「フリント・ボイス」というリベラル系の雑誌の編集人としてジャーナリストとしての道を歩み始めます。雑誌は成功し、ムーアはやがてサンフランシスコの編集部に移籍します。フリントから出て有名になりたかった彼でしたが、政治的な題材を多く主張する彼と会社は折り合うことはなかった。彼は一年ほどでフリントに舞い戻ってきます。しかし彼が帰ってきたフリントでは大変なことが起こっていたのです。

 GMの会長ロジャー・スミスは合理化の一貫としてフリントの工場の閉鎖を決定したのです。フリントの人口は15万人。そのうち、3万人が失業することになったのです。世界最大の企業がどうしてそんな方針を発表したのか。もうつぶれるという会社ではないのに。生産拠点を人件費の安い外国に移すことが目的だったのだ。そしてその浮いたお金は武器輸出産業の資金となったのだ。

 町は急激に衰えた。ムーアはスミスにインタビューを申し込もうとGM本社に乗り込むが門前払いされてしまう。直接会って、話がしたいと考えたムーアはありとあらゆる方法でスミスを追いかけるが、スミスはインタビューを拒否して逃げてしまう。。。

 私の住んでいる町は田舎で大企業の工場が集結している、典型的な企業城下町です。小学生の頃、私以外の近所の子どもは皆、工場が作っていた幼稚園の出身でいずれも社員の子どもでした。もし、この工場がごそっと移転してしまったら町はどうなるんだろうかとは思います。現に隣町ではその町を代表する工場が完全に移転してとてつもなく大きい、何も無い土地が町の一部分を占めています。再開発の計画は立っていますがこの状況だし、どう転ぶかわかんねえ。

 日本の例で言うと炭鉱の閉鎖による町の衰退ということになるのでしょう。昭和30年代まで全盛を極めた石炭産業が衰退して炭鉱に働く者全てが解雇された。がそれにしても産業構造の変化ということでまだ納得も行く。それに比べ、経営者の一存で滅亡を決められたフリントの例は少々惨い。GMのスポークスマンのトム・ケイは「アメリカは資本主義の国だ」と胸をはって社長の決断を誉める。確かにそうだろう。その金で武器輸出産業に出したとしても経営の観点から見れば「儲かるところに金を入れて何が悪い」ということになる。が思うのは、企業というものはそんなものなのか?GMという会社はアメリカを代表する会社であり、国の歴史と共に歩んできた会社である。その会社に社会的責任というものはないのだろうか?フリントはGMの発祥の地であり、フリントの住人は何よりもGMを愛してきた。そうした思いも歴史も全て棄ててしまう。大企業の会長というのはそんなつまらんオッサンなのか?
「フリントは現在、ひどい状態です。家賃が返せずに次々と住民は家を明渡しています。」
「それがどうした。そんなことは大家に言え」
「あなたの会社の社員ですよ!?」
「関係ないね」
・・・確かにつまらんオッサンであった。

 ムーアが「子どもの時にGMの社員は三人だと思ってた」うちの一人、パット・ブーンの言い方も惨い。「アムウェイにでも転職すればいいじゃないか」日本でも数年前に、失業者に対して「ネット産業に逝け」だの「ベンチャーを起こせ」とか無責任なことをほざく経済評論家がたくさんおった。(いやまだいる。大臣までやってる)こんなセリフは所詮、人事(ひとごと)だから言えるのか、世の中を知らん奴(就活中の学生)だからほざけるセリフなんだろう。自らが経済でも動かしてるつもりなんでしょう。アホです。確かに資本主義であるのだから、全ての人が雇用されるのは無理であろう。が、経営者には自らの決断で多くの人がクビを吊ることになるという自覚は必要だろう。

 家賃を払えない失業者を追い出す保安官代理。彼は昔、工員であったが、仕事に魅力が感じられずに辞めてしまった。道端でウサギを売る女性。彼女は大学に通うお金を稼ぐ為に”ペット用の”ウサギと”食肉用の”ウサギを売っている。”食肉用の”ウサギは彼女がさばく。フリントはこれから観光の町になるんだ、と威勢良く語る市の幹部。(観光産業は大失敗に終わり、町には巨大な借金と廃墟が残った。)皆、それぞれ懸命に生きている。その姿をムーアは淡々と撮り続ける。ムーアは私財を投じ、このドキュメンタリーを完成させて大ヒットを飛ばします。「ボーリング・フォー・コロンバイン」までこなれてないし、見せ場も少ない映画ですがテンポよくまとめているので飽きることなく、見てられました。

1989年作品ワーナー・ブラザース映画配給
監督、製作、脚本:マイケル・ムーア
撮影:クリストファー・ビーヴァー、ジョン・プルーサック、ケヴィン・ラファーティ、ブルース・シェーマー

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