人を泣かせて30年、不朽の泣かせ作品「砂の器」〜おらあ、こんな人知らねえ!〜
2004年4月28日 過去日本映画
今日、ご紹介するのは高槻松竹セントラルで「白い巨塔」と二本立てで公開された「砂の器」。4月18日の日曜日に見に行ってきました。混んでるやろうなぁという予感はありましたが、行ってみると一つのスクリーンでやる予定が二つのスクリーンでやってて両方とも朝一番で満員になってて補助席が出るほどの盛況でした。二本とも椅子に座ってじっくり楽しみましたが、あわせて5時間を補助席で見るのはめちゃくちゃしんどかったやろうね。お年寄りも多かったですが、若いお客さんも多くて老若男女が入り乱れておりました。ドラマの効果も大きいんでしょうが、二本ともややリバイバルでよく上映される作品で人気も高い。私も「白い巨塔」は昨年に見てますし、「砂の器」もリバイバル上映の定番になっています。一昔前、松竹は何かというと「砂の器」をしょうもない映画と抱き合わせで上映したりしています。言わば、松竹のキラーコンテンツやね。
監督は親父の代から松竹の監督、ミスター松竹こと職人、野村芳太郎。脚本は橋本忍、山田洋次。撮影は川又昴、音楽は芥川也寸志という顔ぶれ。松竹を代表するスタッフですね。製作は橋本忍が作った個人会社の橋本プロダクション。橋本忍という人は「羅生門」「私は貝になりたい」「切腹」「白い巨塔」「日本沈没」「八墓村」と様々な大作を手がけた(但し、共同脚本も多い)当時の日本映画界を代表する名脚本家ですが、彼の才能は脚本よりもむしろプロデューサー的な能力にあったと思えます。
橋本プロダクションは「砂の器」「八甲田山」という大ヒット作を生み出しますが、超カルト大作「幻の湖」の大失敗により、日本映画界から姿を消します。橋本忍も86年の「旅路 村でいちばんの首吊りの木」を最後に10年以上も沈黙を守っています。東北の方の映画祭にゲストとして出られたこともあるそうですが、表舞台には一切出てこない。失礼な話ですが、もう亡くなったと思ってました。「幻の湖」DVD化にもコメントなし。
「砂の器」は橋本プロダクションの第一回作品でした。曰く、構想14年。脚本自体は「砂の器」が新聞小説として連載されていたときに書かれたものでした。脚本化された段階ではまだ連載が終わってなかった。橋本忍は山田洋次と相談して原作になかった親子の旅路の部分を膨らませるという工夫でたった3週間で脚本を書き上げてしまいました。が、脚本を見た松竹の城戸四郎会長がらい病などの題材のヘビーさを心配して製作の中止を決定。脚本はお蔵入りしてしまったのです。それから何年もたって、橋本忍が自分で好きなように撮れるなって手がけたのがこれだったのです。執念といやあ、執念ですが、何も十年以上も前のお蔵入り企画を持ってこなくても。。と思う。
「砂の器」に関しては最近やってたドラマは見てませんが田中邦衛と佐藤浩市でやったのを見てましたし、断片的にどういう映画かは知ってました。ただ実際に見たのはこれがはじめて。確かによくできてるし、名作だと思う。ただ、ややあざとい感じがする。テロップでほとんどの状況を説明してしまう乱暴なやり方も脚本が練れてない証拠だと思うし、穴もやや多い。が、それは終わってからじっくり考えて出てくることで見ていたときには私もやはり何度も胸が熱くなった。それはやはり後半の旅のシーンが大きいと思う。犯人である和賀の幼い頃の回想シーンである。村を追われた父親と共に山陰を西に向かう親子の二人旅。セリフはなく、音楽と旅をする二人だけで映画は進むのである。
橋本忍はこの後半のヒントは人形浄瑠璃にある、と語っていました。(樋口尚文「70年代日本の超大作映画」)人形浄瑠璃とは、浄瑠璃語り(太夫)が独特の節回しで浄瑠璃を語る。その浄瑠璃に寄り添うように三味線が弾かれ、その心情を絵に表すように人形が動くのだ。「砂の器」に当てはめると、三味線は和賀が弾く「宿命」で、浄瑠璃語りは捜査会議の席上で捜査結果について思い入れたっぷりに語る、丹波哲郎演じる刑事、そしてセリフを一言も発することなく、旅を続ける親子は人形なのです。今度のテレビドラマでもわかったことですが、病気の差別を扱うというのは映画会社も嫌がるし、原作も暗くてとても映像化に向いているとは言い難い。そういう題材を見事に泣かせの技術を駆使して名作にしてしまう。橋本忍という人の発想はやはりすごかったのだ。
緒形拳、加藤剛、渥美清、笠智衆、丹波哲郎と出演陣を見ると豪華ですし、後半のコンサートシーンを見ると大変、お金がかかっている映画に見えます。が、実際のところはどうだろうか。前半の調査は出ずっぱりなのは丹波哲郎一人だし、(主役であるはずの加藤剛は映画全体を通して半分も出ていない!)後半も加藤嘉しか出ていない。豪華キャストも丹波が旅先で会う人々で出番も短いしね。渥美清は伊勢の映画館主人、笠智衆は殺された男の旧友、同じような感じで菅井きん、殿山泰司が出ています。佐分利信、島田陽子、森田健作も登場が少ない。何より緒形拳の登場シーンが実に少ない。各地の景色を写すのには骨は折れたでしょうが、少人数のスタッフでいけますしね。その分、コンサートシーンで目一杯お金を使った。
私は後半よりも前半の丹波があちこち訪ね歩くシーンの方が好き。とにかく気になったら現地に飛んでいく。そしてしつこいほどの聞き込み。クソ真面目と言ってもいい地味なやり方で事件の謎解きをしていく。ここらへんがテンポがよくて、面白い。ともすれば、後半にばかり評価が集まってしまうが前半の謎解きの部分は大変軽やかでいい。何分でも時代の作品ではあるとは思う。が、村を追われて、誰にも省みられることなく、旅を続けるというのはどれほどつらかったか、考えるにぞっとする。それがこの映画が時代を超えて人の心をうち続けているということなのだろう。
この作品はビデオやDVDで見られる方も多いだろうがやはりここはスクリーンで見て欲しい。関西でも上映は5月22日〜30日に大津京町滋賀会館シネマホール、6月12日〜18日に高槻松竹セントラルでやる。高槻松竹セントラルの方は「白い巨塔」と二本立て上映なのだゾ。お見逃しなきように。
参考
http://www.rcsmovie.co.jp/shiga/shiga.htm
http://www.cinema-r170.com/
監督:野村芳太郎 脚本:橋本忍 山田洋次 製作:橋本忍、佐藤正之、三嶋与四治 原作:松本清張 撮影:川又昂 音楽監督:芥川也寸志 美術:森田郷平 照明:小林松太郎 製作協力:シナノ企画
出演:丹波哲郎、加藤剛、森田健作、島田陽子、山口果林、加藤嘉、春日和秀、笠智衆、夏純子、松山省二 、内藤武敏、稲葉義男、春川ますみ、花沢徳衛、殿山泰司、濱村淳、穂積隆信、菅井きん、佐分利信、緒形拳、渥美清
監督は親父の代から松竹の監督、ミスター松竹こと職人、野村芳太郎。脚本は橋本忍、山田洋次。撮影は川又昴、音楽は芥川也寸志という顔ぶれ。松竹を代表するスタッフですね。製作は橋本忍が作った個人会社の橋本プロダクション。橋本忍という人は「羅生門」「私は貝になりたい」「切腹」「白い巨塔」「日本沈没」「八墓村」と様々な大作を手がけた(但し、共同脚本も多い)当時の日本映画界を代表する名脚本家ですが、彼の才能は脚本よりもむしろプロデューサー的な能力にあったと思えます。
橋本プロダクションは「砂の器」「八甲田山」という大ヒット作を生み出しますが、超カルト大作「幻の湖」の大失敗により、日本映画界から姿を消します。橋本忍も86年の「旅路 村でいちばんの首吊りの木」を最後に10年以上も沈黙を守っています。東北の方の映画祭にゲストとして出られたこともあるそうですが、表舞台には一切出てこない。失礼な話ですが、もう亡くなったと思ってました。「幻の湖」DVD化にもコメントなし。
「砂の器」は橋本プロダクションの第一回作品でした。曰く、構想14年。脚本自体は「砂の器」が新聞小説として連載されていたときに書かれたものでした。脚本化された段階ではまだ連載が終わってなかった。橋本忍は山田洋次と相談して原作になかった親子の旅路の部分を膨らませるという工夫でたった3週間で脚本を書き上げてしまいました。が、脚本を見た松竹の城戸四郎会長がらい病などの題材のヘビーさを心配して製作の中止を決定。脚本はお蔵入りしてしまったのです。それから何年もたって、橋本忍が自分で好きなように撮れるなって手がけたのがこれだったのです。執念といやあ、執念ですが、何も十年以上も前のお蔵入り企画を持ってこなくても。。と思う。
「砂の器」に関しては最近やってたドラマは見てませんが田中邦衛と佐藤浩市でやったのを見てましたし、断片的にどういう映画かは知ってました。ただ実際に見たのはこれがはじめて。確かによくできてるし、名作だと思う。ただ、ややあざとい感じがする。テロップでほとんどの状況を説明してしまう乱暴なやり方も脚本が練れてない証拠だと思うし、穴もやや多い。が、それは終わってからじっくり考えて出てくることで見ていたときには私もやはり何度も胸が熱くなった。それはやはり後半の旅のシーンが大きいと思う。犯人である和賀の幼い頃の回想シーンである。村を追われた父親と共に山陰を西に向かう親子の二人旅。セリフはなく、音楽と旅をする二人だけで映画は進むのである。
橋本忍はこの後半のヒントは人形浄瑠璃にある、と語っていました。(樋口尚文「70年代日本の超大作映画」)人形浄瑠璃とは、浄瑠璃語り(太夫)が独特の節回しで浄瑠璃を語る。その浄瑠璃に寄り添うように三味線が弾かれ、その心情を絵に表すように人形が動くのだ。「砂の器」に当てはめると、三味線は和賀が弾く「宿命」で、浄瑠璃語りは捜査会議の席上で捜査結果について思い入れたっぷりに語る、丹波哲郎演じる刑事、そしてセリフを一言も発することなく、旅を続ける親子は人形なのです。今度のテレビドラマでもわかったことですが、病気の差別を扱うというのは映画会社も嫌がるし、原作も暗くてとても映像化に向いているとは言い難い。そういう題材を見事に泣かせの技術を駆使して名作にしてしまう。橋本忍という人の発想はやはりすごかったのだ。
緒形拳、加藤剛、渥美清、笠智衆、丹波哲郎と出演陣を見ると豪華ですし、後半のコンサートシーンを見ると大変、お金がかかっている映画に見えます。が、実際のところはどうだろうか。前半の調査は出ずっぱりなのは丹波哲郎一人だし、(主役であるはずの加藤剛は映画全体を通して半分も出ていない!)後半も加藤嘉しか出ていない。豪華キャストも丹波が旅先で会う人々で出番も短いしね。渥美清は伊勢の映画館主人、笠智衆は殺された男の旧友、同じような感じで菅井きん、殿山泰司が出ています。佐分利信、島田陽子、森田健作も登場が少ない。何より緒形拳の登場シーンが実に少ない。各地の景色を写すのには骨は折れたでしょうが、少人数のスタッフでいけますしね。その分、コンサートシーンで目一杯お金を使った。
私は後半よりも前半の丹波があちこち訪ね歩くシーンの方が好き。とにかく気になったら現地に飛んでいく。そしてしつこいほどの聞き込み。クソ真面目と言ってもいい地味なやり方で事件の謎解きをしていく。ここらへんがテンポがよくて、面白い。ともすれば、後半にばかり評価が集まってしまうが前半の謎解きの部分は大変軽やかでいい。何分でも時代の作品ではあるとは思う。が、村を追われて、誰にも省みられることなく、旅を続けるというのはどれほどつらかったか、考えるにぞっとする。それがこの映画が時代を超えて人の心をうち続けているということなのだろう。
この作品はビデオやDVDで見られる方も多いだろうがやはりここはスクリーンで見て欲しい。関西でも上映は5月22日〜30日に大津京町滋賀会館シネマホール、6月12日〜18日に高槻松竹セントラルでやる。高槻松竹セントラルの方は「白い巨塔」と二本立て上映なのだゾ。お見逃しなきように。
参考
http://www.rcsmovie.co.jp/shiga/shiga.htm
http://www.cinema-r170.com/
監督:野村芳太郎 脚本:橋本忍 山田洋次 製作:橋本忍、佐藤正之、三嶋与四治 原作:松本清張 撮影:川又昂 音楽監督:芥川也寸志 美術:森田郷平 照明:小林松太郎 製作協力:シナノ企画
出演:丹波哲郎、加藤剛、森田健作、島田陽子、山口果林、加藤嘉、春日和秀、笠智衆、夏純子、松山省二 、内藤武敏、稲葉義男、春川ますみ、花沢徳衛、殿山泰司、濱村淳、穂積隆信、菅井きん、佐分利信、緒形拳、渥美清
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