今日の深作まつりは1964年の「ジャコ萬と鉄」。1949年に撮られた谷口千吉監督作品の「ジャコ万と鉄」のリメイクです。黒澤明と谷口千吉が脚本を書いています。名作と言われた作品を元の脚本で新人に毛が生えたような監督が撮るというのは相当しんどかったと思います。が、それでもそこそこ面白い作品にしてしまうのは、さすがと言うべきか。会社にしてみると「誇り高き挑戦」のような観念的な作品を撮るような奴に好きなように撮られてはかなわんということでこういう映画を撮らせたようです。会社の思惑もあたったのか、「初めて、二塁打ぐらいのヒットになった」と本人が語るようにそこそこお客さんも入ったようです。

 最も、出来栄えについては谷口千吉の「ジャコ万と鉄」は見ていないのですが比較はできません。鉄:三船敏郎、ジャコ万:月形龍之介だったのを、高倉健、丹波哲郎で撮った。高倉健は「人生劇場 飛車角」の熱演などで人気は出てきていましたが、スターに駆け上がるのは翌年に撮られた石井輝男の「網走番外地」。そういや、舞台も同じ北海道だし、高倉健、丹波哲郎というキャストも同じ。荒野をソリで疾走するシーンもあるしね。どことなく、似てるね。

 終戦直後のカムイ岬。ニシン漁をしている九兵衛(山形勲)は今日も岬から海を見つめていた。ニシン漁は博打のようなもので、ニシンの大群が来るのを待たねばならない。大勢の出稼ぎ漁師を雇って、その時をひたすらに待っていた。安い給料なので、集まってくるのは流れ者ばかり。どう見ても漁師と思えないほどの大阪弁の優男(江原真二郎)もその一人だった。ある日、隻眼のジャコ萬(丹波哲郎)という男が現れる。ジャコ萬は樺太で九兵衛に船を盗まれ、その恨みを晴らそうとしていたのだ。同じ頃、南方で戦死したと思われていた息子の鉄(高倉健)が帰ってくる。ジャコ萬と鉄は早速、喧嘩を始めてしまう。ジャコ萬は他の漁師が働いていても知らん顔で朝から酒を飲んでいる。鉄はそんなジャコ萬が気に入らないが、父親がしたことを知り、距離をおいていた。

 一方、九兵衛のあこぎなやり方に漁師の不満が募り、遂にストライキが起こる。その先頭にたったのがジャコ萬だった。「俺は九兵衛の泣く姿をみたい」と誓った彼にとっては復讐のいい機会だった。鉄は九兵衛に賃金を上げることを約束させて、働かせようとするが。。

 ニシン来たかカモメに問えば。。のソーラン節にあるように北海道では大変、ニシン漁が盛んだったそうです。現在は、晦日に食べる”にしんそば”ぐらいしかなじみがありませんが、大正時代から戦後すぐにかけてまでとてもよく取れた。深作監督は実際に北海道でニシン漁をロケしたそうですが、既に全盛期が終わってて撮影には苦労したそうです。

 物語のクライマックスはジャコ萬と鉄の対決です。漁師たちがストライキを起こして、ニシンは取らないと団結する。九兵衛は「まず、ニシンを取らないとおまえたちに給料も払えない」と怒り、漁師たちの中にもそうだなと思い出すものもいますがジャコ萬がそれを暴力で押さえ込んでしまう。鉄は九兵衛に給料をあげることを約束させて「あのニシンは親父の魚じゃない。俺たちの魚だ」と説得して漁に出ます。諦めきれないジャコ萬は鉄と決闘する。この決闘シーンも実にかっこいい。

 谷口監督が撮った1949年ごろは東宝争議という有名な組合運動があって、まともに映画が撮れるような状態じゃなかった。黒澤もこの時期には東宝を離れて、「白痴」を松竹で撮っています。表現者から見れば、組合運動に対する思いというのは「まずニシンを取らないと仕方ないじゃないか」という考えに近かったようです。深作監督は東映で起こった組合運動にも距離をおいていましたし、組合運動にどのような意見を持っていたのかはわかりません。ただ、この映画については「ニシンをとったら負け」と思っていたらしいです。前作を見てないので、比較ができないのが残念。

 ただ今作はそうした理屈ぬきでも十分楽しめるアクション作品です。何よりも高倉健がいい。一般的イメージの高倉健は寡黙な男ですが今作の健さんは南洋の踊りを踊りながら、舌を出しておどけるなど三枚目的なところも見せています。高倉健とはこの次の「狼と豚と人間」と「カミカゼ野郎」の特別出演の三本だけです。丹波哲郎のジャコ萬もいい。丹波哲郎のジャコ萬もいい。片目で毛皮のちゃんちゃんこを羽織ってるところはどう見ても、悪役にしか見えない。こういう得体にしれない悪役をやらせると実にうまい。鉄が惚れる少女を演じた入江若葉も可愛い。高倉健と丹波哲郎の魅力を最大限に生かしきった佳作と言える作品だと思います。まあこういう作品を撮れるということ。

監督:深作欣二 脚本:黒澤明、谷口千吉 音楽:佐藤勝 撮影:坪井誠 助監督:野田幸男
出演:高倉健、江原真二郎、入江若葉、山形勲、南田洋子、大坂志郎、高千穂ひづる、渡辺粂子、丹波哲郎

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