【日本のヌーベルヴァーグ】誘惑〜中平康監督作品
2004年3月14日 過去日本映画
今日、紹介するのは3月上旬までシネヌーヴォでやってた中平康レトロスペクティブPart2より「誘惑」。1957年に撮られた作品です。中平康って人は日活の監督でいろんな映画を残しているのですが、会社にはちっとも認められず、また興行的にもふるわなかったために今まで知る人ぞ知るという監督でした。「月曜日のユカ」とか「狂った果実」のように一部有名な作品もありますが、知名度はやはり低かった。が、その作品がだんだん見直されてきてます。昭和の日本映画と言えば、一般的なイメージはもうあきれるほど黒澤か小津で確かに凄い監督ですが、日本映画はそれだけじゃないのです。大映とか日活はやはりつぶれてしまったためか、知名度が低くなってしまう。増村保造、三隅研二、森一生、井上梅次などの復権はややされてきましたが、「悪名」の田中徳三の評価は低すぎるしね。中平康も映像センスとかカット割りなんて独特で今見ても十分、わくわくできるだけの魅力を持っている。映画は時代の生き物なのですが、やはり時代を超えて評価される作品というのはある。中平作品はまさにそうで、日本映画に興味がない人で俳優の名前を知らない人でも充分面白い作品だと思う。こういう映画を見せてくれる機会を作った映画館への感謝は当然のこととして、フィルムが残ってたことにも感謝したい。文化庁もつまらん作品に出資するぐらいならば、古いフィルムの保存に頑張ってくれよ。今の状況は映像に理解がある民間が自主的に保存してるような状況なので東京フィルムセンターなりでしっかり管理するシステム作りが重要であろう。行政にしかできない仕事というのはやはりあるのだ。
銀座で洋品店を営む杉本省吉(千田是也)は数年前に妻を亡くして今では娘の秀子(左幸子)と二人暮し。秀子は「芸術はお金になる」と割り切るドライな女で前衛生花(省吉曰く「おばけ生花」) にこっている。省吉は銀座に画廊が少ないということで洋品店の二階を改造して画廊にしようとしていた。秀子は貧乏絵描きグループの杉山(葉山良二)、田所(安井昌二)を誘い、自分たちのグループの発表会にそこを使おうと考えていた。洋品店には、無愛想で化粧嫌いな事務員、竹山順子(渡辺美佐子)がいた。彼女は実は省吉に想いを寄せており、生命保険の勧誘員で省吉に近づこうとしている、キツネ眼鏡のコト子(轟夕起子)を毛嫌いしている。そんな彼女であったが、田所に「君、化粧をしたまえ。君はいい顔をしている」と指摘されてからお化粧をはじめる。順子は殻を破ったように愛想もよくなり、性格も明るくなっていく。そして田所に恋をしていた。
二階の画廊で秀子グループの展覧会が開かれた。田所の絵を見た画家(東郷青児、岡本太郎)はその素晴らしさにうなる。一躍、時の人になった田所であったが本人は全くそのことを知らなかった。記者たちをうまく相手する杉山を見て秀子は彼に商才を感じ、思いを寄せる。彼は妹の章子(芦川いづみ)を伴って画廊に現れる。挨拶をした省吉は彼女の顔を見てはっとなる。彼の初恋の人に瓜二つであったからだ。省吉は若き日、芸術家をめざしており、彼女と恋に落ちた。彼女が資産家に嫁ぐと決まった時、彼は別れてしまった。キスの一つもせずに。その後悔がずっと彼を縛っていた。そして章子は彼女の娘であったのだ。
登場人物が自分の心情をひっそりと小声でつぶやくという演出が面白い。省吉が珈琲屋で失恋の思い出に耽り、思わずつぶやいてしまうというシーンが楽しい。中平お得意の群像劇って奴で主人公を特定せずに老若男女が入り乱れてみんなが個性的でいい。これだけのストーリーを詰め込んで90分で仕上げるというのだから本当にため息が出ます。これが監督デビュー二年目の作品なのだ。すげえや。
芦川いづみの可愛らしさというのはいつも息を飲んでしまうが渡辺美佐子も大変いい。つんとしてていけ好かない女がどんどん魅力的に化けていく。演技というのはたいしたもんですね。左幸子、中原早苗のコケティッシュ的なところもいい。葉山良二は男前なんだが、私には「実録施設銀座警察」のこまいヤクザっぷりが印象に残りすぎてなんか違う感じがしてしまう。初めての宝塚出身の映画女優となった轟夕起子はこの時、40歳。戦前はトップアイドルだったのですが戦後は個性的な脇役女優に転身しました。中平とはこの二年後、「才女気質」という大傑作を撮ります。一筋縄ではいかないおばはんを楽しそうに演じています。若き日の宍戸錠もちょっぴりだけ出てます。
監督:中平康、製作:高木雅行、原作:伊藤整、脚色:大橋参吉、撮影:山崎善弘、音楽:黛敏郎、美術:松山崇
出演:千田是也、左幸子、安井昌二、渡辺美佐子、小沢昭一、葉山良二、芦川いづみ、長岡輝子、武藤章生、中原早苗、高友子、轟夕起子、二谷英明、宍戸錠、天本英世、新井麗子、殿山泰司、浜村純、東郷青児、岡本太郎
銀座で洋品店を営む杉本省吉(千田是也)は数年前に妻を亡くして今では娘の秀子(左幸子)と二人暮し。秀子は「芸術はお金になる」と割り切るドライな女で前衛生花(省吉曰く「おばけ生花」) にこっている。省吉は銀座に画廊が少ないということで洋品店の二階を改造して画廊にしようとしていた。秀子は貧乏絵描きグループの杉山(葉山良二)、田所(安井昌二)を誘い、自分たちのグループの発表会にそこを使おうと考えていた。洋品店には、無愛想で化粧嫌いな事務員、竹山順子(渡辺美佐子)がいた。彼女は実は省吉に想いを寄せており、生命保険の勧誘員で省吉に近づこうとしている、キツネ眼鏡のコト子(轟夕起子)を毛嫌いしている。そんな彼女であったが、田所に「君、化粧をしたまえ。君はいい顔をしている」と指摘されてからお化粧をはじめる。順子は殻を破ったように愛想もよくなり、性格も明るくなっていく。そして田所に恋をしていた。
二階の画廊で秀子グループの展覧会が開かれた。田所の絵を見た画家(東郷青児、岡本太郎)はその素晴らしさにうなる。一躍、時の人になった田所であったが本人は全くそのことを知らなかった。記者たちをうまく相手する杉山を見て秀子は彼に商才を感じ、思いを寄せる。彼は妹の章子(芦川いづみ)を伴って画廊に現れる。挨拶をした省吉は彼女の顔を見てはっとなる。彼の初恋の人に瓜二つであったからだ。省吉は若き日、芸術家をめざしており、彼女と恋に落ちた。彼女が資産家に嫁ぐと決まった時、彼は別れてしまった。キスの一つもせずに。その後悔がずっと彼を縛っていた。そして章子は彼女の娘であったのだ。
登場人物が自分の心情をひっそりと小声でつぶやくという演出が面白い。省吉が珈琲屋で失恋の思い出に耽り、思わずつぶやいてしまうというシーンが楽しい。中平お得意の群像劇って奴で主人公を特定せずに老若男女が入り乱れてみんなが個性的でいい。これだけのストーリーを詰め込んで90分で仕上げるというのだから本当にため息が出ます。これが監督デビュー二年目の作品なのだ。すげえや。
芦川いづみの可愛らしさというのはいつも息を飲んでしまうが渡辺美佐子も大変いい。つんとしてていけ好かない女がどんどん魅力的に化けていく。演技というのはたいしたもんですね。左幸子、中原早苗のコケティッシュ的なところもいい。葉山良二は男前なんだが、私には「実録施設銀座警察」のこまいヤクザっぷりが印象に残りすぎてなんか違う感じがしてしまう。初めての宝塚出身の映画女優となった轟夕起子はこの時、40歳。戦前はトップアイドルだったのですが戦後は個性的な脇役女優に転身しました。中平とはこの二年後、「才女気質」という大傑作を撮ります。一筋縄ではいかないおばはんを楽しそうに演じています。若き日の宍戸錠もちょっぴりだけ出てます。
監督:中平康、製作:高木雅行、原作:伊藤整、脚色:大橋参吉、撮影:山崎善弘、音楽:黛敏郎、美術:松山崇
出演:千田是也、左幸子、安井昌二、渡辺美佐子、小沢昭一、葉山良二、芦川いづみ、長岡輝子、武藤章生、中原早苗、高友子、轟夕起子、二谷英明、宍戸錠、天本英世、新井麗子、殿山泰司、浜村純、東郷青児、岡本太郎
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