今日の深作まつりは「トラ・トラ・トラ!」。この作品を深作監督作品に加えるのも変なんだがおそらく深作が監督しなかったら私も多分、見ておらんと思うので一応入れておきます。日本映画がお好きな方ならご存知だと思いますが、当作品の日本パートを監督する予定だったのは黒澤明でした。が、68年の12月にクランクインして一ヵ月の間に黒澤は中断と再開を繰り返し、翌年の1月に黒澤は体調の悪化を理由に降板しています。表向きは降板ですが事実上の更迭。書き忘れてましたが当作品は聖林が製作した戦争映画。舞台は太平洋戦争の発端となった真珠湾攻撃です。製作は「史上最大の作戦」で大ヒットを叩き出した20世紀フォックス。アメリカ部分はアメリカの監督が担当し、日本のパートは日本を代表する黒澤明に任せようとしていた。言っちゃあ悪いですが明らかに日本の観客を意識した登用だとは思います。

 黒澤も東宝とうまくいってない時期でスタジオを東映京都に写して撮影の準備をしていた。黒澤は役者をあえて使わずに山本五十六以下全員を素人を起用した。これはまあ、役者への面当てでしょう。三船敏郎が黒澤の完璧主義を批判したりしていた。あの東映京都で素人が足並み合わせて海軍の真似なんかやってるもんだから、仁侠映画の大部屋俳優がからかう。怒った黒澤はヤクザなんか撮影所に入れるな、と怒鳴ったりなど色々あったようです。このことがあったからか黒澤は翌年に低俗映画(この中にはヤクザ映画も入る)に反対する「四騎の会」をたちあげています。とにかく撮影はうまく行かなかった。夜中にセットの窓ガラスを木刀で叩き割る、とか尾崎豊みたいなことまでしてます。

 解任の理由としては黒澤の完璧主義を20世紀フォックスが嫌ったとか、黒澤がスタッフをうまくまとめられなかったとか色々囁かれてますが、要は黒澤の撮影スタイルが時代にそぐわなくなってきていたということなのでしょう。「影武者」、「乱」の製作過程に起こった諸問題から見てもやはりそういうことだったのではないか、と。「トラ!トラ!トラ!」降板後の黒澤は「どですかでん」の興行的な失敗で東宝から三行半を叩きつけられるなど悲惨の極み。遂には自殺未遂まで起こしています。

 話がそれましたね。黒澤解任後の監督は日活の舛田利雄になった。この人は後年、笠原和夫と組んで「二百三高地」とか「大日本帝国」などの戦争映画を撮ることになります。舛田さんより共同監督になってくれ、との申し入れがあったので深作監督が引き受けた。深作は真珠湾攻撃直前の戦艦赤城のシーンと空中戦を担当したのです。深作にしてもアメリカの最高のセットで空中戦が撮れるのが楽しみだったようです。それからギャラもよかった。ところが、この最高のセットこと”フロントプロジェクション”ってのが、もう欠陥商品で全然使えない。見ればわかるのですが、空中戦の部分はほとんどが顔のアップ(ほとんどが田村高廣)でごまかすこととなった。深作監督はやる気がなくなってしまい、「プレミア試写も行く気がなかった(笑)」。

 映画自身は日本パートとアメリカパートを別々に撮影してそれを交互に編集してるからなんかちぐはぐ。アメリカ海軍の動きと山本五十六の動きと日本政府の動きが並行に進んでいく。まあ言うほどは惨くないです。ただ、面白くないのだ。最もこれはリアルタイムに見ていたら見方が変わったかもしれない。時はベトナム戦争で同じ年にアメリカンニューシネマの傑作である「イージーライダー」が封切りされています。後世になって「パールハーバー」と比較して見るのでは随分、印象も変わってくると思います。

 真珠湾ってのは言わば日本の奇襲が成功しただけでアメリカ人にしてみればそんなに面白い話ではない。ラストで山本五十六に「結果的に騙まし討ちになってしまった。アメリカ人を本気で怒らせてしまった」とつぶやかせてはいますが基本的には日本ばっかりが舞台になってる映画です。それならばやはり日本の俳優を充実させて欲しかった。山村聰以外は言っちゃあ悪いが二線級でインパクトに欠ける。日活の俳優さんばっかりです。田村高廣、藤田進、東野英治郎とか好きな俳優は出てますけどね。脚本も雑です。やはり観客が等身大で感情移入できるような人物を出すべきだったと思う。田村高廣、三橋達也なんかがそれなんだがほとんど出番がなかった。深作監督が連れてきた室田日出男ももう少し、出番が欲しかった。それから「トラ」に合わせてか渥美清がチョイ役で出演しています。

 深作監督はこの映画で描かれる山本五十六善人説に全く同意できなかったようです。山本五十六、米内光政が早期講和を当初より唱えていたことから出された説でしょうが、結局は東条英機の陸軍=悪、という単純な図式から出ているようにしか見えない。それから近衛文麿、木戸、野村駐米大使の書き方にも不満が残る。脚本家は政治をこの映画に取りいれたかったのでしょうが資料不足か全く説得力がないのだ。イメージ先行のような。深作監督の「戦争ってそんなもんじゃねえだろう」という思いは「軍旗はためく下に」に受け継がれていきます。

製作総指揮:ダリル・F・ザナック 監督:深作欣二、舛田利雄、リチャード・フライシャー 脚色:ラリー・フォレスター、小國英雄、菊島隆三 音楽:ジェリー・ゴールドスミス 美術:村木与四郎 他 撮影:姫田真佐久 他
出演:北村和夫、渥美清、室田日出男、岡崎二朗、松山英太郎、内田朝雄、葉山良二、藤田進、東野英治郎、田村高廣、三橋達也、山村聰、島田正吾、阿部徹、井川比佐志、芥川比呂志、十朱久雄(日本人キャストのみ)

コメント

お気に入り日記の更新

日記内を検索