君は中平康を見たか〜「その壁を砕け」〜しぼんだタイヤ〜
2004年2月1日 映画 今日はシネヌーヴォで1月末までやってた中平康レトロスペクティブより「その壁を砕け」。中平康って人はデビュー作の「狂った果実」で嵐のようにデビューしていろんな作品を撮って風のように去っていきました。生前、その作品の評価は決して芳しくありませんでしたが、死後25年たった今、早すぎた天才として見直されています。いつも思うことですが、凄い映画というのは平然と時代を越えていく。彼が映画に重視したものはまずスタイルであり、スピード。如何に映画をかっこよく、飽きずにお客さんに見てもらうか、に尽きます。スピーディな展開、テンポのいいドラマ、そして歯切れのよい台詞回しで1時間半をあっという間に見せてしまう。深作欣二は中平が「狂った果実」を発表したその5年後の1961年にデビューしていますが、その初期作品は明らかに中平康の影響を受けています。中平康の作品に最もよく出ているのが後に深作夫人となる中原早苗で中平の「大学野郎と娘たち」で彼女を気に入った深作は後年、「狼と豚と人間」に出演させています。この映画で使われた、時代状況を当時の新聞の切り抜きで紹介していくという手法は「仁義なき戦い」でも使われています。
中平監督と言えばやはり「狂った果実」「月曜日のユカ」などが代表作になるのですがこの監督の面白さは実にいろいろな映画を撮ってるということです。「狂った果実」「月曜日のユカ」のように前衛的で実験映画みたいな作品があると思えば「あした晴れるか」「危いことなら銭になる」「喜劇 大風呂敷」のようなコメディもある。また「学生野郎と娘たち」のような群像劇もありますし、裕次郎、吉永小百合のアイドル映画もある。私はまだ8本しか中平作品を知らないのですがどの映画も個性的で雰囲気も違って面白い。「その壁を砕け」は中平作品の中ではやや異色なサスペンスにしあがっています。
自動車修理工の渡辺三郎(小高雄二)は夜を徹して車を走らせていた。彼の行き先は新潟、そこには美しき婚約者、とし江(芦川いづみ)がいた。3年前、結婚の約束をした三郎は東京で一心不乱に働き続けた。そして、遂に彼女を迎えに行くのだ。喜び勇んでいた三郎だが、彼は群馬の村で突如警察によって拘束されてしまう。村で殺人事件が起こった。かけつけた巡査の森山(長門裕之)はその犯人が車で逃げたことを知り、いち早く車を手配。その時間に車で村を通過していた三郎が疑われたのだ。老夫婦はナタで襲われ、15万円を奪われた。旦那は死亡し、妻・民子(北林谷栄)は頭に傷を負っていた。次男夫婦は出かけており、家の中は老夫婦と長男の未亡人である咲子(渡辺美佐子)だけであった。金ももっておらず、物的証拠もなかった三郎であったが、民子の証言が証拠と認定されて逮捕されてしまう。三郎は村で一人の男を車に乗せた、と主張したが証拠は何もなかった。とし江は事件を知り、泣き崩れるが弁護士を雇って彼の無実のために戦う。
このたびの手柄で刑事に昇進した森山は本署に移動した。彼は咲子に惚れており、離縁された咲子の実家に赴く。しかし、咲子は既に再婚してそこにはいなかった。諦めきれない気持ちを抱えたまま、森山は佐渡の婚家を訪ねると彼女の再婚相手は出稼ぎで村に来ていた石工であった。咲子の様子が何かおかしい。もしかして咲子は事件のことを何か知っているのではないか。村に帰った森山は河原で怪しげな男を見つける。東京の上野のアパートに消えていく男。森山はアパートに踏み込むが、そこには男の死体が転がっていた。もしかしてこの男が三郎が乗せたという男ではないだろうか。。果たしてアパートからは15万円が出てきた。捜査のやり直しを主張する森山に刑事部長(西村晃)、警察署長(清水将夫)は困惑するが。。
新藤兼人の脚本がよくできている。息詰まる展開で思わず夢中になる。一体、この事件の犯人は誰かと最後まで展開が読めない。リアルだなと思ったのは実地調査。裁判官立会いのもとで事件を再現するのだが、どことなくぎこちない。しかし次々と新事実が浮かんできて、証人が今までの証言をひっくり返してしまう。緊張感いっぱいのシーンなんだが、クスクス笑えるシーンが随所に忍ばせています。
車の使い方がうまい。三郎が給料の全てをつぎ込んだ車。オープニング、この車はこれからの新生活のようにピカピカで希望の象徴でした。ところが彼が逮捕されている間、車はタイヤがパンクしてしまい警察署の片隅にゴミのように置かれている。ラスト、車にゆっくり空気が入っていくシーンは思わず涙がこぼれそうになった。長門裕之、芦川いづみの二人がとてもいいです。
監督:中平康 脚本:新藤兼人 撮影:姫田真佐久 音楽:伊福部昭
キャスト:長門裕之、小高雄二、芦川いづみ、沢井保男、二木草之助、北林谷栄、渡辺美佐子、木浦佑三、峯品子、清水将夫、 西村晃、菅井一郎、大滝秀治、鈴木瑞穂、三崎千恵子、下条正巳、下元勉、青木富夫
中平監督と言えばやはり「狂った果実」「月曜日のユカ」などが代表作になるのですがこの監督の面白さは実にいろいろな映画を撮ってるということです。「狂った果実」「月曜日のユカ」のように前衛的で実験映画みたいな作品があると思えば「あした晴れるか」「危いことなら銭になる」「喜劇 大風呂敷」のようなコメディもある。また「学生野郎と娘たち」のような群像劇もありますし、裕次郎、吉永小百合のアイドル映画もある。私はまだ8本しか中平作品を知らないのですがどの映画も個性的で雰囲気も違って面白い。「その壁を砕け」は中平作品の中ではやや異色なサスペンスにしあがっています。
自動車修理工の渡辺三郎(小高雄二)は夜を徹して車を走らせていた。彼の行き先は新潟、そこには美しき婚約者、とし江(芦川いづみ)がいた。3年前、結婚の約束をした三郎は東京で一心不乱に働き続けた。そして、遂に彼女を迎えに行くのだ。喜び勇んでいた三郎だが、彼は群馬の村で突如警察によって拘束されてしまう。村で殺人事件が起こった。かけつけた巡査の森山(長門裕之)はその犯人が車で逃げたことを知り、いち早く車を手配。その時間に車で村を通過していた三郎が疑われたのだ。老夫婦はナタで襲われ、15万円を奪われた。旦那は死亡し、妻・民子(北林谷栄)は頭に傷を負っていた。次男夫婦は出かけており、家の中は老夫婦と長男の未亡人である咲子(渡辺美佐子)だけであった。金ももっておらず、物的証拠もなかった三郎であったが、民子の証言が証拠と認定されて逮捕されてしまう。三郎は村で一人の男を車に乗せた、と主張したが証拠は何もなかった。とし江は事件を知り、泣き崩れるが弁護士を雇って彼の無実のために戦う。
このたびの手柄で刑事に昇進した森山は本署に移動した。彼は咲子に惚れており、離縁された咲子の実家に赴く。しかし、咲子は既に再婚してそこにはいなかった。諦めきれない気持ちを抱えたまま、森山は佐渡の婚家を訪ねると彼女の再婚相手は出稼ぎで村に来ていた石工であった。咲子の様子が何かおかしい。もしかして咲子は事件のことを何か知っているのではないか。村に帰った森山は河原で怪しげな男を見つける。東京の上野のアパートに消えていく男。森山はアパートに踏み込むが、そこには男の死体が転がっていた。もしかしてこの男が三郎が乗せたという男ではないだろうか。。果たしてアパートからは15万円が出てきた。捜査のやり直しを主張する森山に刑事部長(西村晃)、警察署長(清水将夫)は困惑するが。。
新藤兼人の脚本がよくできている。息詰まる展開で思わず夢中になる。一体、この事件の犯人は誰かと最後まで展開が読めない。リアルだなと思ったのは実地調査。裁判官立会いのもとで事件を再現するのだが、どことなくぎこちない。しかし次々と新事実が浮かんできて、証人が今までの証言をひっくり返してしまう。緊張感いっぱいのシーンなんだが、クスクス笑えるシーンが随所に忍ばせています。
車の使い方がうまい。三郎が給料の全てをつぎ込んだ車。オープニング、この車はこれからの新生活のようにピカピカで希望の象徴でした。ところが彼が逮捕されている間、車はタイヤがパンクしてしまい警察署の片隅にゴミのように置かれている。ラスト、車にゆっくり空気が入っていくシーンは思わず涙がこぼれそうになった。長門裕之、芦川いづみの二人がとてもいいです。
監督:中平康 脚本:新藤兼人 撮影:姫田真佐久 音楽:伊福部昭
キャスト:長門裕之、小高雄二、芦川いづみ、沢井保男、二木草之助、北林谷栄、渡辺美佐子、木浦佑三、峯品子、清水将夫、 西村晃、菅井一郎、大滝秀治、鈴木瑞穂、三崎千恵子、下条正巳、下元勉、青木富夫
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