*少し長いです。

 本日は大ヒット上映中の「ラストサムライ」。出ている俳優がほとんど日本人で主演がトムクルーズで舞台が日本と日本市場で売れることを明確に狙った作品で実際に大ヒットをしております。ただ製作側としても日本での大ヒットまでは計算に入ってたんでしょうがアメリカでのヒットは読みきれんかったんじゃないかと思う。

 この正月は子供はニモで大人はラストサムライでカップルが「ジョゼ・・」(この映画をカップルで見てどうするんだろうか)「木更津キャッツアイ」でございましたな。最近の傾向なんですが、京都ではMOVIX京都だけが満員で他の劇場(スカラ座含む)は閑古鳥でございました。今年の年末にはMOVIXのスクリーンも増えるし、ますますこの傾向は強くなるでしょう。観客100万人突破で23日は1000円で映画を見せたとか。休日なんぞ券買えませんもん。おかげで少し遠ざかってはおりますが。

 さて「ラストサムライ」でございます。いい映画だと思います。私も2003年度ランキングの5位に挙げています。聖林ってのは恐ろしいところで日本を舞台にした、日本人が喜ぶような映画を作っちゃう。正直、今の日本映画界でこんな映画は撮れない。時代劇というのはただでさえ、お金がかかる。特に戦争シーンでは金がかかるので「壬生義士伝」のように市街戦を撮るのが日本映画では精一杯。あれだけ、エキストラの衣装をそろえて、馬もそろえて。。となるといくら金がかかるのか、もう想像がつかない。

 それだけの金を集めるプロデューサーもいませんし、またそのような環境で撮った映画監督も一線を退いていますし、全くの経験不足です。それで仕方ないから外国のアクションを参考にするんだけど、「ホワイトアウト」とか「バトルロワイアル?」みたいな惨い作品ができちゃうわけだ。このシーンだけでもこの映画はすごいと言えるんです。日本人が見てみたかった日本映画、「七人の侍」「影武者」みたいな大掛かりな時代劇と言えるでしょう。でも本来ならね、こんな映画は日本が作らないけんよ。

 日本映画はそれだけじゃねえよ、と思う人もいるでしょう。私もその一人だが聖林とタイマン張れるような映画はもう作れないという事実はやはり認めねばならないのです。金をどっさりかける正攻法では駄目で手法や脚本の巧みさで客の気を引くゲリラ的戦法を強いられています。ただ、そのやり方も聖林はご存知でそちらの方面でも掃討作戦を進めています。

 今の日本映画界にはもう行き先がなくて、一部アニメ、ホラーにしか逃げ道を見出せないというきわめてヤバイ状態となっています。その状況にこの「ラストサムライ」のヒットです。日本映画界がもっとも挑戦せねばならない分野で聖林に映画作られてヒットさらわれて悔しくないのか?聖林はこの分野でさらに二の矢、三の矢を放ってくるでしょう。そしてそれに日本映画界は沈黙し続けねばならないのか。配給会社、製作会社から何の声も聞こえてこない。

 というのがまあ日本の事情なんですが聖林から見てみれば別になんともない映画です。よくある外国を舞台にして、外国の風習に戸惑うアメリカ人と反目しながらも現地の人と友情を深めていくっての。所謂インディアンムービーって奴で大昔からあります。「アンナと王様」ってあったでしょ?要はあれです。日本も007で舞台になってますし、「ミスターベースボール」とか「ブラックレイン」もあるしね。ただ、日本のお家芸である時代劇に踏み込んだのが始めてだというだけで。ですからどうしても日本人から見ると首をかしげざるをえないところもたくさんあります。

 外国人にとってのサムライは葉隠の書く「武士道は死ぬところを見つけたり」を貫く戦士なんですが、我々日本人は実際の武士が士の身分を町民に売却していたことや、慢性的な貧乏で鎧兜はそっくり質に入ってたことや切捨て御免が実行された例がほとんどなかったことなどを知ってます。幕末の一時期に武士道がもてはやされましたが、武士の実像はアメリカ人の考えるものとは違う。幕末の活躍した志士のほとんどが町民出身とか田舎の郷士とかばっかりなのから見てもこんな厳しい戒律(違和感あるだろうけど、外国の理解は多分こうだ)を武士が守ってたとは到底思えない。やはり時代劇は「たそがれ清兵衛」とか「壬生義士伝」の方がしっくりきます。

 しかしこの映画は凡百のインディアンムービーに比べるとよくできています。どうせ、アメリカ人の作るもんやからええ加減やろとかどうせプロパガンダムービー(映画に思想があって何が悪い)やろ、との狭量な考えからは何も生まれてきません。私も知らんかったのですが、刀しか使わないという士族の叛乱は本当にあったようです。熊本で起こった神風連の乱というのがそれです。廃刀令への不満から出た蜂起でした。おそらくモデルはこの事件だと思います。西南戦争や佐賀の乱は政治闘争ですがこの事件はやや意を変えます。ただすぐに征伐されてます。勝元のモデルはやはり西郷でしょう。実際の西郷はこんないい人じゃなくて策士なんですがまあいいか。大村のモデルは大久保利通か三井の番頭と呼ばれた井上馨あたりでしょうが、これも明治の政治家の総称と思う方がわかりやすい。

 日本からの使節に軍人が武器のセールスをしているシーンで大村がそっとつぶやく一言があります。「ここはあきんどの国だよ。」そして日本もアメリカにならって「サムライの国」より「商人の国」に転身を遂げていきます。その過程で勝元やオールグレンのような生粋の「サムライ」は姿を消していきます。その過程を情緒たっぷりに日本の役者を使って描いていきます。ただ私は大村にもう少し重きをおいて欲しかったと思う。ただの悪役になっちゃったのがやや残念。

監督:脚本:エドワード・ズウィック 脚本:マーシャル・ハーコスピッツ、ジョン・ローガン 美術:リリー・キルバート
出演:菅田俊、真田広之、福本清三、鶴見辰吾、渡辺謙、小雪、中村七之助、小山田シン、原田眞人、トニー・ゴールドウィン、ビリー・コノリー、ティモシー・スポール、トム・クルーズ

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