さて今年一発目の深作まつりは代表作のひとつである「いつかギラギラする日」。もうすぐ深作監督の一周忌ですね。あれからもう一年か。。日曜の午後のニュースで亡くなったことを知った時にはショックでした。休養したのは知ってたけどそんなにすぐ亡くなるとは思わなかったです。絶対にもう一回復活すると思ったもん。亡くなってから出版された本を読むと本当にもうギリギリの状態でクランクインしたんですね。

 壮絶な最期なんだが、何と言うか非常に羨ましい。そこまで人生を燃焼しきれる生き方ができるというのは。私もいくつまで生きるかわかりませんが、少しでもその生き方に近づければ、、と思います。ただ、問題はそこまで執着しきれるものがあるかどうかなんですわな。

 「いつかギラギラする日」は1992年の作品。深作監督にとっては「ドーベルマン刑事」以来のアクション映画で当時、松竹のプロデューサーだった奥山和由と組んで撮った作品です。「映画監督・深作欣二」によると奥山和由のアクション映画への思い入れは大変なものであったようです。奥山の映画作りは「面白いものを作れば客は来る」という正攻法に基づいていました。この頃より映画の観客は男女比率で言うと圧倒的に女性が増えており、女性が好む文芸映画、ラブロマンスが全盛でした。深作監督が「道頓堀」「華の嵐」などを撮ったのもそうした傾向を反映したものでした。奥山も「ハチ公物語」とかもプロデュースしていたのですが、やはり男性が好むアクションドンパチムービーが撮りたかった。で、それを撮れるのは深作監督しかいないと考えていたようです。

 有名な話ですが奥山がプロデュースして、たけしが監督、主演した「その男、凶暴につき」は当初、深作が監督する予定でした。が、たけしの映画に対する考えと深作の考えが合わないこともあって(「映画監督 深作欣二の軌跡」の奥山和由インタビューに詳しい)深作は降板します。そして実ったのがこの映画だったわけです。

 が、奥山の思惑とは裏腹に深作監督はアクション映画を撮ることに相当に疑問を感じていたようです。それはアクション映画を見ても喜んでくれる土壌が今の日本にあるかという疑問でした。アクション映画というのはお祭り騒ぎで「うわーすげー」「死ぬな!」と手に汗を握りながら見ることに醍醐味があります。映画に入り込まないとドキドキもワクワクもできないわけです。そこまで観客が夢中になってくれるか。昔の映画みたいに映画館全体が常にざわざわして時には拍手が巻き起こったり、観客のため息が聞こえたりするほどの熱気を持つか。

 聖林の映画なんかそこはよくしたもので視覚だけで観客をぶっ飛ばしてしまう。しかし日本のアクション映画ではそんな金もないから、どうしてもショボくなる。この「いつかギラギラする日」のアクションも結局、そういうものとして見られてしまい、アメリカの映画に比べるとなあ。。と評価されてしまったのです。

 ただ10年たって見ると日本でこういう映画が作れる状況だったことが羨ましい。今の日本映画ではまずこういう映画は作れないだろうね。奥山も松竹から追放されちゃったし。「ラストサムライ」なんて日本を舞台にした聖林の映画まで作られちゃう時代だもん。しかも日本の俳優を使って。アメリカ映画みたいな映画を日本で作って大ヒットさせようと奥山は考えてたんだよ、凄いね。映画館でかぶりつきになって映画を見るような人はみんな家でレンタルビデオを見るようになって、映画館はおしゃれなところになってしまったのです。

 元々、乗り気でない仕事は絶対にしない人。そうした疑問に答えを出せずに脚本は難航。脚本を担当した丸山昇一によると缶詰になってしつこいぐらい脚本を直し続けたそうな。やはりどうして撮っていいかわからずにどこに思い入れを持っていくかに相当、苦労したようです。木村一八がどうしてそんな危ないヤマを踏むか。ただ金が欲しいだけではなあ。。ということでロックを引っ張ってきて、クレージーでもうわけわかんない荻野目慶子を用意して、「ギャングこそがわが人生」なショーケンと対決させる。そこに不気味なプロの殺し屋の原田芳雄がからんでくる。ドラマだけでは満足できないからアクションシーンもふんだんに増える。最期のパトカーをぐしゃぐしゃにするシーンなんか明らかにやりすぎ。撮影も天気に祟られ、費用も倍増するし、大変だったようです。

 初期の傑作「白昼の無頼漢」を彷彿とさせるような威勢がいいアクションムービー。もうビデオで何回も見てます。オープニングからスタイリッシュでかっこいいし、テンポもいいし、出てくる人物も一人一人が生き生きしてます。深作映画初心者の方にはまずこの映画からお薦めしますね。

 ショーケンがかっこよすぎるのはもちろんですが、脇役では石橋蓮司の奥さん役の樹木希林なんかよかった。ふしめがちにショーケンを見ながら、百万円を要求する様はなんか背筋がぞっとくる。ちんけなヤクザの親分をやった八名信夫も面白かった。ただそれに対して木村一八が若干、弱かったと思う。ショーケンに比べると役不足。でもよく頑張ったと思います。原田芳雄がすごい。ヤクでラリってるかと思うと一発で仕留める、凄腕の殺し屋。こいつの出現で映画がどうなるかのドキドキ感が増えた。荻野目慶子は。。まあいいか。それから元ジュディマリのYUKIがライヴのエキストラで参加してて後にジュディマリを結成することになるバンドのメンバーと出会うきっかけになったのも有名な話ですな。

監督:深作欣二 脚本:丸山昇一 製作:奥山和由
出演:萩原健一、六平直政、荻野目慶子、千葉真一、八名信夫、安岡力也、樹木希林、野口貴史、木村一八、多岐川裕美、石橋蓮司

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