今日、紹介するのは「昭和歌謡大全集」。村上龍の原作を篠原哲雄が映画化。今年の湯布院映画祭でも上映されて主演の松田龍平が来ていました。ファンの人がつめかけて大入り満員でした。ただ、京都の美松劇場の初日はガラガラ。上映も2週間で終了しちゃうし、映画館のやる気もなかった。もうすぐ無くなっちゃうわけだけど。

 今の日本映画界で一年に2本から3本というペースで映画を撮れる篠原哲雄ってのはやはり売れっ子なんだろう。篠原ってのは職人でアイドル映画なんて撮らせると抜群でおそらく、どんな題材でも無難にこなすだろう。実は映画を見てから原作を読んだのだが、まあこんな狂った、本をよく映像化したものだなと思う。村上龍も大喜びだった。もうほとんど原作通りなんでファンの方にもお薦めできます。若干、違うところは青年グループのシーンをガサッと落としたところぐらいかな。おかげでイシ君(松田龍平)がやや弱い。

 「昭和歌謡大全集」は今から10年前に書かれたもので「プレイボーイ」で連載されていました。セリフの中に時々、「ロスの暴動はこんなものではない」などの時代を感じさせる言葉が出てきます。設定を現代にしていますが、何の違和感もありません。多分、書かれた当時は架空のお話で今でもやはりそうなんですが、「一度人を殺してみたかった」という理由で少年が人を殺す時代ですからね、あんまりシャレにはなってないです。おばさんは何にも変わんないしね。それを脚本にしたのがいまや「てるてる家族」(面白い!)の大森寿美男。「黒い家」の脚本も書いています。ほとんど原作そのままなんですが原作にある「一発やりませんか」とか「ヒップエレキバン」の件とかをうまく使っています。

 おばさんってのは原田芳雄が言うように「地球が滅びたって生き続ける」しぶとい動物で、そりゃアレを使わんと勝てんですわ。ここで言うおばさんというのは、「進化をとめてしまった」人間のこと。ああ、これは死ぬほどよくわかります。進化を止めてしまうということは人目を気にせずに人生、エエ加減に生きていくということでこれほど迷惑な人達はいません。一方、青年グループだって似たようなもんでおたがいに意識しだしたところで戦争が始まる。小心者のスギオカがおばさんに痴漢呼ばわりされたのにキレてナイフで殺してしまうところから映画はスタート。少しも相手のこととか考えない。

 まあ血が出るのが厭だという人や映画を単純に楽しめない人にはこの映画、面白くないでしょう。意味を考えちゃ駄目です。深みにハマります。私が一番好きなのは安藤政信が小便と血潮をあげながら死んでいくシーンです。某週刊誌で本当にオナニーしてんのかと話題になった樋口可南子もいつもと違う役柄で面白かったですが未婚ながら見事なおばさんっぷりを発揮した細川ふみえに悲しき最期を迎えた鈴木砂羽のおばさんがよかったです。

 それから市川美和子。原作ではいるだけで皆が憂鬱になる顔がずれた短大生というとんでもない役柄をほとんど素で演じきりました。彼女の特性を生かした素晴らしいキャスティングだと思います。逆に青年グループでは言うほど目立ったのがいなかったのが残念。話題先行でキャスティングしてるようで松田龍平と池内博之はミスキャストだと思う。松田龍平の「恋の季節」がむごすぎるのは原作でもそうなんだがそこまで計算してるのかな?してますよね。あと津田寛治と古田新太が小さな役ですが目立つ儲け役。職人・篠原の見事な仕事っぷりが楽しめる作品なれど少しはやんちゃして欲しかったです。

監督:篠原哲雄 脚本:大森寿美男 企画:鈴木光 原作:村上龍
出演:岸本加世子、樋口可南子、鈴木砂羽、森尾由美、細川ふみえ、内田春菊、松田龍平、池内博之、斉藤陽一郎、安藤政信、近藤公園、村田充、市川美和子、古田新太、津田寛治、木下ほうか、山中聡、土屋久美子、千石規子、鰐淵晴子、寺田農、ミッキーカーチス、内田朝陽

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