今日の深作まつりは「柳生一族の陰謀」。お待たせしました。別に飽きてきたとか感想書くのがしんどいというわけではなく、単に時間がなくてビデオを見れておりませんでした。つうか、最近忙しすぎだ。とか言いながら有休を取ってるわけですが。

 時代を見抜く名プロデューサーにその期待にこたえる監督、ライター、そしてキラ星のごとく続々と出てくるスター達のおかげで走り続けた東映も遂にかげりが見えてきた1978年。
東映社長の岡田茂は従来のプログラムピクチャア路線より、大作路線への転向を打ち出します。しかし仁侠映画は今や時代遅れ、実録路線も行き詰まっておりました。そこで原点回帰だということで選んだのがなんと時代劇。当時、75年よりスタートした映画村は東映のドル箱的存在(今は昔だな)だった時代だったので時代劇のあたる下地はあったのかもしれません。ご存知のように東映は元々時代劇の会社なので衣装にしてもセットにしても一流のものが揃っていたわけです。

 が、最も従来の片岡千恵蔵、大川橋蔵の時代劇をやっても仕方ない。だから監督は時代劇を撮ったことがない深作だったんでしょう。「映画監督・深作欣二」によると深作が考えたのは「仁義なき戦い」の構図を時代劇に移すことでした。跡目相続と言えばお家騒動だ、と三代将軍の跡目争いを題材にした。深作が目指したのはヤクザ映画風時代劇。松方、成田、室田とヤクザ映画の常連を呼んだのもそう。ただ、問題は主演が萬屋錦之助だったこと。

 萬屋錦之助。子役からひばりとの共演で話題を呼び、「宮本武蔵」シリーズなどの多くの東映時代劇に出演したプリンス。東映がヤクザ映画に以降する際に労働組合のリーダーとして反対し、東映を退社していました。その錦之助が10年ぶりに東映に帰って来る。会社にしてみたら、それだけでこの博打は勝ちと考えていたのでしょうが深作監督にしてみたら撮影初日にあの芝居を見たときに「驚いたというか唖然となったというか(笑)。」とにかくトーンが違う。実際に見てみればわかるのですが、台詞回しのトーンが全然違う。歌舞伎調なんですね、一人だけ。すごく芝居がかってる。で、演技が大仰。

 が、錦之助にも別の考えがあった。大河ドラマで柳生宗矩を演じたことがある彼にしてみれば、従来と同じ演技ではこの話は生きてこない。もっと大仰で異様な怪物にしてしまわないと凄みが出てこない。主君の父親を毒殺し、額から血を流しながら天下取りを進言。自分の子供が死んでも眉一つ動かさない。世話になったものでも邪魔になれば棄ててしまう。悪人という言葉で片付けられない”大物”です。ただそんな男でも普通に演じてはそこに男の悲しみも同情の余地も出てしまう。そうは観客を思わせないほどの演技と言えばあの大仰な演技しかなかった。

 その大物が最後に「夢でござある!」と狂ったように動揺して大喝してやっと映画が終わるのである。まあ言わば「バットマン」でジョーカーを演じたジャック・ニコルソンのようなもの。あの映画もニコルソンのあの怪演がなかったらちっとも面白くなかった。あくまでもスマートでリアルな演技を要求する深作とはうまくいかなかったみたいですが、この錦之助の工夫は大当たりだったと思います。もっとも錦之助にしてみればこんなのは例外中の例外で「時代劇復興のお祭」の一夜の夢で次回の「赤穂城断絶」では深作と激しく対立することになります。

 2時間10分もある大作なのですがテンポのよさと展開の面白さからちっとも退屈させません。主題はお家騒動ですからな、しかも悪人が勝ってしまう、厭な話なんですがあまりそう厭な気がしない。これは悪役の柳生宗矩の大物っぷりとどことなく、哀れさえ感じてしまう家光の影響が大きいと思う。松方演じる家光はよかった。気の小さい善人なのだが宗矩に丸めこまれて権力者に成長していく。この二人の関係がまたいいんだ。悪人だけど。

 それから剣豪公家を演じた成田三樹夫がすごかった。この人は深作の映画では変な役をよくやるんだが「おじゃる」言葉を操りながら刀を振り回す白塗りの公家は笑うというより、神々しささえも感じてしまい、思わず拝んでしまった。深作監督も気に入ってたらしく「映画監督・深作欣二」で「例の成田三樹夫の奥お公家さんが非常に面白かったもんだから、何かあるとすごく白塗りしたくなるというか(笑)。」と述懐しています。後に「忠臣蔵外伝四谷怪談」や「阿部一族」でも白塗りを使いました。

 それに立ち向かうはJACの主催者、千葉真一@十兵衛。この二人の対決は必見。それから浪人の中谷一郎が公家の梅津栄を追っかけて首を刎ねた直後に撃ち殺されるシーンがよかった。それからもちろん最後。忘れられん。

 結局、「柳生一族の陰謀」は8週間のロングラン(当時は3週間ほどの公開が普通だった)となり大ヒットを記録します。「柳生一族の陰謀」は後に千葉真一主演でドラマ化もされました。ちなみに「キルビル」で千葉ちゃんがユマに授ける戦いの極意として言う「仏に会っては仏を殺し。。。」の台詞はこのドラマの中で使われていたナレーションです。映画でも家光を説得するシーンで使われていました。

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