今日は森田芳光の「阿修羅のごとく」。向田邦子脚本のドラマのリメイクです。このドラマはNHKで昭和54年に放送されています。演出は和田勉。私(昭和53年生まれ)の世代では和田勉は駄洒落親父のイメージが強くて何の商売してるのかわからんかったのですが、演出家だったんですね。最近、BSで再放送されたそうですが全く知りませんでした、クソ。DVDは12月21日に発売されるそうなので興味ある人はどうぞ。

 数年前、何気なく今は無き京都ピカデリーで見た「刑法39条」があまりにもすごい映画でそれ以来、森田芳光は気になる監督の一人でした。「黒い家」もめちゃくちゃ面白かったし、「模倣犯」もそんなに悪い映画とは思いません。映画監督で一番必要なのは時代を見抜く勘というか感性だと思う。森田芳光はそれに非常に長けている。今みたいにネット恋愛とか出会いサイトとかネット心中が話題になる前からネットの匿名性の面白さに注目していた「(ハル)」にしても、原作にあった理屈をすっぱり捨て去った「黒い家」にしても、家族の変容について触れた「家族ゲーム」にしても時代を超えて刺激を与えてくれる。が、今回の「阿修羅のごとく」は。。。

 まず疑問なのは何で舞台を昭和54年にしたのか。確かに向田邦子の脚本を生かそうとしたら時代は変えない方はいいと思うがあくまでも原作なんだから。「模倣犯」では原作者をいらつかせるほど変えた森田監督にしてはなんか意外。インタビュー(http://movies.yahoo.co.jp/static/20031101-interview-ashura.html)では「嫉妬やある種の優しさとか、そういった人間的な会話の面はオーソドックスなものだから、新しいから古いからというのは、あまり関係ないという気がしますね。だから、変に時代に合わせるということは考えませんでした。」と答えています。

 確かに、とは思いますがだったらその時代に放送されたドラマをそのままリメイクすることに意味があるのか、と思ってしまう。それにやはり、「あまり関係ない」とは到底思えない。当時に比べたら女性の社会進出も進んでるし、何より家制度というものはほぼ崩壊している。そんなことは森田監督が一番よくわかってると思うのだが。最近、20代の女性監督が、「蛇イチゴ」という、家族制度にズバリ切り込んだスゴイ映画を撮ってるのに比べると森田監督も年老いたのかな、と思ってしまう。

 私はドラマを見ていないのでどこを切ったのか、残したのかわからないですがダイジェスト版みたいな印象を受けました。カット、カットが短いのはいつものことですが恐ろしくテンポが悪い。黒木瞳のカットがやたらに多いのだがこんなにいらない。向田邦子の名前に隠れてしまってるが脚本は「華の乱」の筒井ともみ。この人がもっときっちり刈り込んで詰めて書いてくれたらまた印象も違ってただろう。

 大竹しのぶ、黒木瞳、深津絵里、深田恭子が四姉妹。大竹しのぶは相変わらずうまいし、深津絵里もいいのだが黒木瞳と深田恭子はもう一つ。黒木瞳に普通のオバサンは似合わないし、深田恭子は色気が抜けきって全然可愛くない。風呂入ってるシーンがあるのだが男の体にしか見えんかったぞ。「模倣犯」では全然目立たなかった木村佳乃が嬉しい誤算。小林薫の不倫相手にして、秘書なんだが何とも言えず淫卑。(これ褒め言葉だぞ。)ちっとも色っぽい格好してないのにめちゃくちゃやらしい。それから桃井かおりは出番少ないが面白い演技を見せてくれる。長澤まさみはお気に召さなかったようで本当のチョイ役。「ロボコン」とか言うてますが。男性陣では中村獅童が芸の幅を見せてくれて小林薫は相変わらず安定。仲代達矢もよくもわるくもないが、最近ずっとこんな演技だな。一番よかったのはドラマにも出演していた八千草薫かな。公園でのあの表情はスゴイ。あの表情は長く女優やってる人しか出せないと思う。

 人は誰でも阿修羅。妬み、怒りという負の感情を持っています。人と付き合う時にはこの他人の、そして自分の阿修羅とどう付き合っていくか。お他人さんはもちろん、家族、夫婦、兄弟の間でも扱いかねる。厭な話ですね、まったく。ふとしたきっかけでわずかな”しこり”は決定的な”亀裂”に発展する。父親の不倫が主題になっていますが、姉妹間のしこりに後家さんの悲しみなども扱っています。その分、ドラマはリアルになっていて、しんどいのですがそこはやはり、笑えるシーンも散らばせてくれるのであまり深刻になることはないです。

 が、やはり2時間15分は長い。後半はいいんだが、前半が退屈で何回か寝そうになった。森田監督は映像技術で面白い画面作りしてくれるのだが今回はそれもほとんどなし。卵が割れるシーンとRIKIYAがみかんをポンポン投げるシーンぐらいかな。なんかね、それなりに面白いし、豪華キャストなんだけどありがちな映画なんやね。安易に興行成績だけを狙いに行ってる。篠田正浩みたいで森田らしくないです。

監督:森田芳光 脚本:筒井ともみ 原作:向田邦子 撮影:北信康 美術:山崎秀満 音楽:大島ミチル
出演:大竹しのぶ、黒木瞳、深津絵里、深田恭子、小林薫、長澤まさみ、紺野美沙子、仲代達矢、八千草薫、木村佳乃、佐藤恒治、中村獅童、RIKIYA、板東三津五郎、桃井かおり、益岡徹

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