本日は「ぴあスカラシップ」作品の「BORDER LINE」。2000年、ぴあが開く「PFFアワード」でグランプリを獲得した李相日監督の作品です。この「PFFアワード」ってのは言わば自主映画監督の登竜門みたいなもんでここで頭角を表すと長編映画製作援助システムである「ぴあスカラシップ」で映画を撮ることもできる。この「BORDER LINE」はぴあスカラシップの12本目の作品に当たります。ぴあって雑誌はなんだかんだ言って私は毎週買っており、この作品のことも昔から知っていました。私はあまり自主映画に興味がないので、PFFアワードにも行ったことはないけど「さよなら、クロ」の松岡さんや「ウォーターボーイズ」の矢口さんもここら出てきたこともあって注目はしてました。

 工業高校の周史(沢木哲)は三年生になったが将来に全く意味を見出せなかった。学校が出された「10年後の自分へ」というレポートを前に苛立つ周史。遂に彼が校舎の屋上に干してある作業着に火をつけるところから映画は始まります。ある朝、アル中のタクシー運転手である黒崎(村上淳)は赤の信号で飛び出してきた自転車をはねてしまう。自転車に乗っていた少年は病院に行くことを拒否。かわりに北海道に連れて行くことを要求する。たった今、父親を殴り殺した周史だった。

 ヤクザの組に見を置く宮路(光石研)は彼は決して無能ではなかったが立ち回りの拙さでいまだに組の下っ端であった。弟分が金を持ち逃げした際にまず疑われたのは彼だった。娘の手術代のやりくりで弟分が金に苦しんでいたことを知っていた彼は弟分を逃がそうとしたが、組織に残る為に始末する。

 主婦の美佐(麻生祐未)は念願だったマイホームを手に入れて新しい生活に胸膨らませていた。が、なんだか息子の調子がおかしい。どうやら小学校でイジメにあってるらしいのだ。先生は無能でちっとも動いてくれない。もっとも彼女も強く言うことができない性格でパート先でも疎まれていた。さらなる不幸が彼女を襲う。旦那がリストラされてしまったのだ。

 女子高生のはるか(前田綾花)は一見、物静かな女の子だが援助交際をしていた。遂に警察に補導されてしまう。「親は?」という刑事の質問に彼女は「母は父に殺された。私がその父を殺してやった」とつぶやくのだった。彼女は親戚の家を転々として育った。彼女は退学になってしまい、友人も失ってしまう。。。

 この映画は群像劇で4つのストーリーが進められていきます。このうち主婦の物語を除いて3つの話は交錯していきます。ただこの交錯の部分がテンポ悪くてしかも説明が少ないためにわかりにくい。パンフレットを読まないとちゃんとしたストーリーがよくわからない。そうした意味ではまだまだ未熟な映画だと思う。がそれでも、これだけストレートにリアルな日常を描きながら、それを優しく見守る映画はめずらしい。不覚ながら何度か目頭を熱くさせてしまった。

 この映画に出てくる登場人物は世間に溶け込めなかった人たちで脛に傷を持っている。それが幼少の頃のトラウマとかだったりするのですが、本人の努力の足りなさと性分によって”BORDER LINE”上にいる人たちです。そしてある出来事からそのラインを超えてしまった。どうしてそんな馬鹿なことをしたのか。そんなことは本人が一番わかっている。

 が、そうなってしまった。人間というものは本当に弱くて悲しい。私が一番好きだったのはやはり自らの手で殺した弟分のために組織を裏切るヤクザの話でした。自殺しようとしていた周史を救い、「おまえ、自転車だって乗れるじゃないか。やればなんだってできるんだ」と励ますシーンでは思わず泣いてしまった。ただそうして人に何かを残せる人もいれば、全てが空回りで何も出来ない美佐の話もあり、それがまたすごく悲しい。人生なんて不平等だし、自分の努力が認められることだってないかもしれない。それが世間というものでそれが厭ならばその舞台から退場してしまわねばならない。でもそれもできない。

 主人公ではないのですが女子高生を買おうとしたおっさんのエピソードも強烈でした。買春がバレて全てを失ったおっさんが町で買ったことのある女子高生のはるかを買おうとする。彼が上機嫌でホテルに戻るとドアの前で見知らぬ少年の周史が立っている。どかせよう、とすると「帰れ」の一点張りでどこうとしない。彼は必死ではるかに売春させまいとしているのだ。周史を殴る親父。この場面、おっさんが悪なんだがこの映画では決してオッサンを悪としては描いていない。散々殴りつけたオッサンは少年に謝って去っていく憐れな男として描いている。きっとこの親父はこれからもこんなことを続けて生きていくのだろう。でも生きていかねば仕方ないのだ。

 10年後の自分が予想できないのは私も同じで今から10年前の中学生の時に10年後の自分についてどう考えていたのか、なんて覚えていません。ラスト、周史ははるかに「10年後にまた逢おうな」と伝えます。この少年が10年でも生きてみようかと思えたのがとても感動的でした。

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