深作まつり第三十二夜「新仁義なき戦い 組長の首」〜前から後ろから〜
2003年10月13日 長らく休んでいた「深作まつり」ですが徐々に更新していきます。で、その復帰第一作が「新仁義なき戦い 組長の首」。1975年11月封切で併映が「五月みどりのかまきり夫人の告白」。どんな作品なんだ。「新仁義なき戦い」シリーズは都合3本作られました。「新仁義なき戦い」は「仁義なき戦い」の焼き直しでしたが(でも観客動員数は仁義無き戦いシリーズ最高の149万人)二作目となる今作は舞台を九州に移しています。
新仁義なきシリーズの主な特徴は実録の末期に見える無駄なアクション、酷い設定がまず挙げられますが、私としては前作との大きな違いとして菅原文太が決して善人ではないというところを挙げたい。「仁義なき戦い」シリーズにおいて菅原文太は計略をめぐらすこともありましたが、基本的には目立った行動をせずに時流に巻き込まれる狂言回し的な主人公を演じていました。これにはやっぱり広能には美能幸三というモデルがいたからでしょう。美能氏はそもそも映画化に反対でしたし、OKしたあとも自分に関する設定には女に関する設定を削らせています。もっともこれは脚本の笠原和夫が女に関するエピソードを多く盛り込み、そこだけのカットでとどめるという作戦だったようですが。笠原にしても深作にしても美能氏から多くのネタをもらってるから、やはり主人公の性格を変えることはできなかったんでしょう。いや、別に変えなくてもいいんだけどね。
そうした制約から外れたか今作の文太は槙原(田中邦衛)みたいにとってもダーティー。流れ者のヤクザ、いわゆる”旅の者”で北九州暴力団の大和田組の幹部・楠(山崎努)に雇われて組長を射殺して、服役します。出所後は今や大和田組長の婿となり、組の実権を握るに至った楠より、何らかの”お返し”があることに期待しながら刑期を勤めます。そして。。
出所してきた黒田(菅原文太)は早速、楠を訪ねます。が、楠は生来からのヒロポン中毒が昂じて今や廃人状態。今や一人の若衆もおらず、シノギどころか組長の娘・美紗子(梶芽衣子)のヒモと成り下がっていました。組長の大和田(西村晃)にとりなしを頼むがけんもほろろで挙句の果てには破門まで言い渡される始末。当然、怒り狂う黒田。自棄になった楠は組長を拉致。愛人(中原早苗)を殺すと脅迫して500万円を出すことを約束させた。
一方、大和田組内部は大モメに揉めていた。幹部の赤松(室田日出男)が独立を宣言し、若頭の相原(成田三樹夫)、井関(織本順吉)と対立を深めていた。数日後、相原は黒田に500万円分のシャブを譲り、これを売って金をするように依頼する。金に困っている黒田は早速、若衆にシャブをさばかせるが赤松の縄張りだった為に赤松との抗争が始まった。実はこれは赤松と黒田を争わせる相原の策略で、赤松は黒田の若衆に刺し殺されてしまう。
相原は大阪の親分(内田朝雄)と結んでおり、大和田組の跡目を狙っていた。それを知った大和田は跡目を二番手の井関に譲ることを決定。黒田の抱きこみにかかった。怒った相原はキチガイとなった楠をそそのかし、大和田を殺させてしまう。楠をクルクル病院に送り込んだ相原は強引に二代目を襲名。黒田はそれに真っ向から対決することを誓うが。。
後半のカーチェースが目を引きますがこの作品の醍醐味は各自の策士っぷり。相原、黒田、井関の腹の探り合いは「仁義なき戦い 代理戦争」を思わせるようで見応えがあります。金に異常な執着を見せる文太の悪人ぶりがえぐい。山崎努に組長を拉致させる、若衆に人の縄張りでシャブをさばかせる、自らは前面に立たずに井関の為と嘯き、カーチェースを敢行。さらに若衆の小林稔持を鉄砲玉として送り出す。。まさに手段を選ばず。後ろ盾を持たない”旅の者”だから当たり前かもしれないけど。
深作映画の初登場となる山崎努の駄目ヤクザっぷりがすごい。将来を嘱望されて組長の娘をもらったのに今や廃人状態。愛想をつかした組長に逆ギレして撃ち殺してしまう。銃を向けられた瞬間の西村晃の演技もいい。「あー情けない。なんちゅう男や」って顔をして背中を向けたところに弾をブチこまれる。逃げ惑う組長に銃弾を散々と打ち込んでペタリとへたり込んでしまう。こんな奴とは絶対に友達になりたくない。シャブ中のキチガイとしては「新仁義無き戦い」の八っちゃん(宍戸錠)も怖いですが、病的にどこか哀れさを誘うこの楠は山崎努以外は絶対にできないと思う。
女性も負けておりません。「仁義なき戦い 広島死闘編」と同じく破滅型亭主を背負わされる梶芽衣子の必死っぷりも印象に残りますが「下がりボンボン」のひし美ゆり子さん(以下、姐さん)にとどめを刺します。「下がりボンボン」ってのは所謂”さげまん”のことで姐さんを愛人にした男が次々に死んでしまう。成田三樹夫は彼女を愛人にしたのはいいのですが怖くて前からできない。(同じことだと思うが)胸をあらわに文太に「あんたは前から?後ろから?」と微笑む姐さんに勝てる者なんか誰もいません。もっとも「不良番長 一網打尽」においては「アソコがガバガバのトルコ嬢」というすさまじいヨゴレを演じています。元々はウルトラマンシリーズのアイドル。何が彼女にあったのでしょうか?ちなみに彼女は今でも現役バリバリでホームページhttp://www2.tky.3web.ne.jp/~boshichi/も持っておられます。なんか写真集がリバイバルで発売されまくってるらしい。ひし美さん本人が出演映画に対する一言コメントのコーナーがあります。コメントも「覚えてないですけど、ホステスの役でしょ?、どーせ(笑)」とか「撮影スタッフのまとまりがない」とか本音+投げやりなコメントが最高です。「プレイガール」もDVD化したし、下がりボンボンブームが来るか?(その言い方はやめれ。)
それから特筆すべきところとしてはフォークシンガーの三上寛演じる”コバヤシアキラ”。脚本にはなかった三上のアドリブのようですが、名前とその死に様のギャップがとても悲しい。相棒の小林稔持もピラニア軍団に恥じない見事な死にっぷり。それから千葉真一がひっそりと出演しています。探しましょうね。
監督:深作欣二 脚本:佐治乾、田中陽造、高田宏治 撮影:中島徹 企画:日下部五朗、音楽:津島利章
出演:菅原文太、内田朝雄、ひし美ゆり子、小林稔持、梶芽衣子、山崎努、岩尾正隆、成田三樹夫、川谷拓三、八名信夫、小林亜星、野口貴史、福本清三、中原早苗、渡瀬恒彦、汐路章、三上寛、室田日出男、織本順吉、西村晃、千葉真一、成瀬正
新仁義なきシリーズの主な特徴は実録の末期に見える無駄なアクション、酷い設定がまず挙げられますが、私としては前作との大きな違いとして菅原文太が決して善人ではないというところを挙げたい。「仁義なき戦い」シリーズにおいて菅原文太は計略をめぐらすこともありましたが、基本的には目立った行動をせずに時流に巻き込まれる狂言回し的な主人公を演じていました。これにはやっぱり広能には美能幸三というモデルがいたからでしょう。美能氏はそもそも映画化に反対でしたし、OKしたあとも自分に関する設定には女に関する設定を削らせています。もっともこれは脚本の笠原和夫が女に関するエピソードを多く盛り込み、そこだけのカットでとどめるという作戦だったようですが。笠原にしても深作にしても美能氏から多くのネタをもらってるから、やはり主人公の性格を変えることはできなかったんでしょう。いや、別に変えなくてもいいんだけどね。
そうした制約から外れたか今作の文太は槙原(田中邦衛)みたいにとってもダーティー。流れ者のヤクザ、いわゆる”旅の者”で北九州暴力団の大和田組の幹部・楠(山崎努)に雇われて組長を射殺して、服役します。出所後は今や大和田組長の婿となり、組の実権を握るに至った楠より、何らかの”お返し”があることに期待しながら刑期を勤めます。そして。。
出所してきた黒田(菅原文太)は早速、楠を訪ねます。が、楠は生来からのヒロポン中毒が昂じて今や廃人状態。今や一人の若衆もおらず、シノギどころか組長の娘・美紗子(梶芽衣子)のヒモと成り下がっていました。組長の大和田(西村晃)にとりなしを頼むがけんもほろろで挙句の果てには破門まで言い渡される始末。当然、怒り狂う黒田。自棄になった楠は組長を拉致。愛人(中原早苗)を殺すと脅迫して500万円を出すことを約束させた。
一方、大和田組内部は大モメに揉めていた。幹部の赤松(室田日出男)が独立を宣言し、若頭の相原(成田三樹夫)、井関(織本順吉)と対立を深めていた。数日後、相原は黒田に500万円分のシャブを譲り、これを売って金をするように依頼する。金に困っている黒田は早速、若衆にシャブをさばかせるが赤松の縄張りだった為に赤松との抗争が始まった。実はこれは赤松と黒田を争わせる相原の策略で、赤松は黒田の若衆に刺し殺されてしまう。
相原は大阪の親分(内田朝雄)と結んでおり、大和田組の跡目を狙っていた。それを知った大和田は跡目を二番手の井関に譲ることを決定。黒田の抱きこみにかかった。怒った相原はキチガイとなった楠をそそのかし、大和田を殺させてしまう。楠をクルクル病院に送り込んだ相原は強引に二代目を襲名。黒田はそれに真っ向から対決することを誓うが。。
後半のカーチェースが目を引きますがこの作品の醍醐味は各自の策士っぷり。相原、黒田、井関の腹の探り合いは「仁義なき戦い 代理戦争」を思わせるようで見応えがあります。金に異常な執着を見せる文太の悪人ぶりがえぐい。山崎努に組長を拉致させる、若衆に人の縄張りでシャブをさばかせる、自らは前面に立たずに井関の為と嘯き、カーチェースを敢行。さらに若衆の小林稔持を鉄砲玉として送り出す。。まさに手段を選ばず。後ろ盾を持たない”旅の者”だから当たり前かもしれないけど。
深作映画の初登場となる山崎努の駄目ヤクザっぷりがすごい。将来を嘱望されて組長の娘をもらったのに今や廃人状態。愛想をつかした組長に逆ギレして撃ち殺してしまう。銃を向けられた瞬間の西村晃の演技もいい。「あー情けない。なんちゅう男や」って顔をして背中を向けたところに弾をブチこまれる。逃げ惑う組長に銃弾を散々と打ち込んでペタリとへたり込んでしまう。こんな奴とは絶対に友達になりたくない。シャブ中のキチガイとしては「新仁義無き戦い」の八っちゃん(宍戸錠)も怖いですが、病的にどこか哀れさを誘うこの楠は山崎努以外は絶対にできないと思う。
女性も負けておりません。「仁義なき戦い 広島死闘編」と同じく破滅型亭主を背負わされる梶芽衣子の必死っぷりも印象に残りますが「下がりボンボン」のひし美ゆり子さん(以下、姐さん)にとどめを刺します。「下がりボンボン」ってのは所謂”さげまん”のことで姐さんを愛人にした男が次々に死んでしまう。成田三樹夫は彼女を愛人にしたのはいいのですが怖くて前からできない。(同じことだと思うが)胸をあらわに文太に「あんたは前から?後ろから?」と微笑む姐さんに勝てる者なんか誰もいません。もっとも「不良番長 一網打尽」においては「アソコがガバガバのトルコ嬢」というすさまじいヨゴレを演じています。元々はウルトラマンシリーズのアイドル。何が彼女にあったのでしょうか?ちなみに彼女は今でも現役バリバリでホームページhttp://www2.tky.3web.ne.jp/~boshichi/も持っておられます。なんか写真集がリバイバルで発売されまくってるらしい。ひし美さん本人が出演映画に対する一言コメントのコーナーがあります。コメントも「覚えてないですけど、ホステスの役でしょ?、どーせ(笑)」とか「撮影スタッフのまとまりがない」とか本音+投げやりなコメントが最高です。「プレイガール」もDVD化したし、下がりボンボンブームが来るか?(その言い方はやめれ。)
それから特筆すべきところとしてはフォークシンガーの三上寛演じる”コバヤシアキラ”。脚本にはなかった三上のアドリブのようですが、名前とその死に様のギャップがとても悲しい。相棒の小林稔持もピラニア軍団に恥じない見事な死にっぷり。それから千葉真一がひっそりと出演しています。探しましょうね。
監督:深作欣二 脚本:佐治乾、田中陽造、高田宏治 撮影:中島徹 企画:日下部五朗、音楽:津島利章
出演:菅原文太、内田朝雄、ひし美ゆり子、小林稔持、梶芽衣子、山崎努、岩尾正隆、成田三樹夫、川谷拓三、八名信夫、小林亜星、野口貴史、福本清三、中原早苗、渡瀬恒彦、汐路章、三上寛、室田日出男、織本順吉、西村晃、千葉真一、成瀬正
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