今日は「私は貝になりたい」。今週は戦争を題材にした映画を紹介します。この作品は三条烏丸にある京都文化博物館で観ました。この博物館は週末に古い日本映画を上映してくれる、本当にありがたい施設で私もここで見た映画は数知れず。毎年、10本はここで見ています。
現在、「KYOTO映像フェスタ」と題しましてリクエストが多かった映画30本を毎週2本ずつ流すという素晴らしい企画を実行中。ちなみに一位は当然と言うか、「七人の侍」。選ばれた映画についてはここ→
http://web.kyoto-inet.or.jp/org/bunpaku/eizou.html
選ばれたのはどれも「なるほどなあ。。」と思う作品ばかりだがやはり京都という土地柄を反映してか、雷蔵の人気がめちゃくちゃ高いですね。それから京都を舞台にした「羅生門」とか「炎上」なんかも入ってるし、東映京都撮影所の代表作「仁義無き戦い」もあります。(ここでヤクザ映画やるのははじめてじゃないかな。)こうやって見るとまだまだ見てない作品が多いなあ。。「東京物語」「飢餓海峡」「無法松の一生」とか劇場で見たいものもいっぱいです。
行こうかなと思ってる人に一つご注意ですがかなりの混雑が予想されます。今日も大入り満員でした。1:30、5:00と二回やってるのですがお昼はお年寄りが敬老無料パスを持って押しかけますので30分前に行かないとしんどいと思います。平日でも一緒でむしろ多いぐらい。夕方の方が若干空いてます。何にしても500円で映画見れるのはかなり得です。お友達をお誘いになって、ぜひお出かけを。役所が税金を使って日本映画を応援することは極めて稀です。(文化博物館は京都府。)特に京都は京都映画祭を中止にしやがるなど映画に対して何にもしとらんので非常に貴重な機会です。お見逃しなきよう。
この作品は橋本忍がTBSでドラマとして作った作品を映画用に同じキャスト、スタッフでリメイクしたものです。TBSで作られた作品は前半45分はVTRで後半の45分は生放送で同放送されたそうです。こんな難しいドラマを生でやってたのですね。ちなみに後半も同録で保存されており、最近放送もされたそうです。「私は貝になりたい」と聞くと所ジョージでリメイクされたものもありましたね。子供の時に見た思い出がうっすら残っております。なお、当初は橋本忍のオリジナル脚本と発表されていたのですが、加藤哲太郎著「遺言」と似ている箇所が多かったために裁判になったようです。有名な裁判だったらしく、ネットで検索すると判例がポコポコ出てきます。
フランキー堺演じる清水豊松は四国の片田舎のしがない散髪屋。妻と一人の子供を抱えて何とか店を切り盛りしています。しかし戦争は彼にも影響を及ぼします。彼は召集され、戦地に送られます。ある日、豊松のいる隊は米兵の捕虜を生け捕りにします。二人はもう既に虫の息。軍の司令官よりは「適当に処分せよ」との命令が出た。命令は次々と下に伝達され、上等兵(小池朝雄)に目をつけられていた豊松にその執行が命ぜられた。臆病な豊松は殺すことができず、瀕死の米兵の腕を突き刺した。捕虜殺しは国際法違反の外道の振る舞いである。しかし豊松にとっては上の命令は絶対。これも彼にとっては一つの日常にしか過ぎなかった。。
戦後、元の散発屋に戻った豊松は突然、GHQに捕虜殺害の容疑で拘束されます。当初は「誤解や。言うたらわかってくれる」と軽く見ていた豊松であったが問題は殊の外、重大であった。上の命令が絶対、という常識がアメリカ人の判事には通用しないのである。「厭ならば拒否できるはずだ。それを怠ったということは君にも殺す気があったんじゃないか」「アホな!あんたらは軍隊の恐ろしさを知らんのだ!」上官達は命令者の矢野(藤田進)を除いて、上からの命令と言う言葉を繰り返した。まさか「戦意高揚の見せしめの為に殺した」などと上官は言うわけがなかった。命令書なしに出される命令などありえない。豊松には絞首刑の判決が下りた。。
フランキー堺はこの時、30歳。元々はジャズバンドのシックスレモンズ楽団の一員で俳優ではありませんでした。しかし彼の才能は音楽だけに留まらず、映画にも出演。そしてこの二年前には日本映画を代表する一本と言っても決して過言ではない「幕末太陽伝」に主演しています。この映画はとにかく暗いのですがフランキー堺の演技は深刻になりすぎもせず、また軽すぎもせず、絞首刑が決まってからも再審や噂話に希望をつないでいく男を明るく演じています。看守にタバコの火を頼むあたりとか藤田進と和解するあたりはとてもよかった。この演技があって絶望のラストが胸にドスンと響いてくる。
昨今、戦争を賛美する漫画などの流行で戦争が軽く見られがちですが、戦争が始まれば辛苦をなめさせられるのは国民であるということを改めて感じさせてくれる映画でした。清水豊松は決して他人事ではないのです。巨大な組織に我々、個人個人が立ち向かえるだろうか。聖戦があるかどうかは知らない。黄色人種に勇気を与えた?結構なことだ。私が何より戦争を憎むのは戦争は確実に個人の生活を奪う。どんな立派な理由があろうともその個人においては何の意味もなさない。私が泣いてしまったのは「私は貝になりたい。そうすれば戦争にとられることも家族の心配もせずにすむ。。」と言う主人公の独白である。あれだけ大事だった家族でさえも疎んじるほど彼は世の中を恨んで死んでいくのである。静かな静かな映画です。監督は橋本忍。将来、「幻の湖」を作る人とは思えんぐらい見事なできばえになっています。それから小池朝雄の目をギョロつかせる卑怯な上等兵っぷりが堂に入っております。こういう時代だからこそぜひとも見たい作品であります。
製作:藤本真澄、監督、脚本:橋本忍、題名・遺書:加藤哲太郎、撮影:中井朝一
音楽:佐藤勝、美術:村木与四郎
出演:フランキー堺、新珠三千代、水野久美、笠智衆、中丸忠雄、藤田進、加東大介、南原伸二、小池朝雄
現在、「KYOTO映像フェスタ」と題しましてリクエストが多かった映画30本を毎週2本ずつ流すという素晴らしい企画を実行中。ちなみに一位は当然と言うか、「七人の侍」。選ばれた映画についてはここ→
http://web.kyoto-inet.or.jp/org/bunpaku/eizou.html
選ばれたのはどれも「なるほどなあ。。」と思う作品ばかりだがやはり京都という土地柄を反映してか、雷蔵の人気がめちゃくちゃ高いですね。それから京都を舞台にした「羅生門」とか「炎上」なんかも入ってるし、東映京都撮影所の代表作「仁義無き戦い」もあります。(ここでヤクザ映画やるのははじめてじゃないかな。)こうやって見るとまだまだ見てない作品が多いなあ。。「東京物語」「飢餓海峡」「無法松の一生」とか劇場で見たいものもいっぱいです。
行こうかなと思ってる人に一つご注意ですがかなりの混雑が予想されます。今日も大入り満員でした。1:30、5:00と二回やってるのですがお昼はお年寄りが敬老無料パスを持って押しかけますので30分前に行かないとしんどいと思います。平日でも一緒でむしろ多いぐらい。夕方の方が若干空いてます。何にしても500円で映画見れるのはかなり得です。お友達をお誘いになって、ぜひお出かけを。役所が税金を使って日本映画を応援することは極めて稀です。(文化博物館は京都府。)特に京都は京都映画祭を中止にしやがるなど映画に対して何にもしとらんので非常に貴重な機会です。お見逃しなきよう。
この作品は橋本忍がTBSでドラマとして作った作品を映画用に同じキャスト、スタッフでリメイクしたものです。TBSで作られた作品は前半45分はVTRで後半の45分は生放送で同放送されたそうです。こんな難しいドラマを生でやってたのですね。ちなみに後半も同録で保存されており、最近放送もされたそうです。「私は貝になりたい」と聞くと所ジョージでリメイクされたものもありましたね。子供の時に見た思い出がうっすら残っております。なお、当初は橋本忍のオリジナル脚本と発表されていたのですが、加藤哲太郎著「遺言」と似ている箇所が多かったために裁判になったようです。有名な裁判だったらしく、ネットで検索すると判例がポコポコ出てきます。
フランキー堺演じる清水豊松は四国の片田舎のしがない散髪屋。妻と一人の子供を抱えて何とか店を切り盛りしています。しかし戦争は彼にも影響を及ぼします。彼は召集され、戦地に送られます。ある日、豊松のいる隊は米兵の捕虜を生け捕りにします。二人はもう既に虫の息。軍の司令官よりは「適当に処分せよ」との命令が出た。命令は次々と下に伝達され、上等兵(小池朝雄)に目をつけられていた豊松にその執行が命ぜられた。臆病な豊松は殺すことができず、瀕死の米兵の腕を突き刺した。捕虜殺しは国際法違反の外道の振る舞いである。しかし豊松にとっては上の命令は絶対。これも彼にとっては一つの日常にしか過ぎなかった。。
戦後、元の散発屋に戻った豊松は突然、GHQに捕虜殺害の容疑で拘束されます。当初は「誤解や。言うたらわかってくれる」と軽く見ていた豊松であったが問題は殊の外、重大であった。上の命令が絶対、という常識がアメリカ人の判事には通用しないのである。「厭ならば拒否できるはずだ。それを怠ったということは君にも殺す気があったんじゃないか」「アホな!あんたらは軍隊の恐ろしさを知らんのだ!」上官達は命令者の矢野(藤田進)を除いて、上からの命令と言う言葉を繰り返した。まさか「戦意高揚の見せしめの為に殺した」などと上官は言うわけがなかった。命令書なしに出される命令などありえない。豊松には絞首刑の判決が下りた。。
フランキー堺はこの時、30歳。元々はジャズバンドのシックスレモンズ楽団の一員で俳優ではありませんでした。しかし彼の才能は音楽だけに留まらず、映画にも出演。そしてこの二年前には日本映画を代表する一本と言っても決して過言ではない「幕末太陽伝」に主演しています。この映画はとにかく暗いのですがフランキー堺の演技は深刻になりすぎもせず、また軽すぎもせず、絞首刑が決まってからも再審や噂話に希望をつないでいく男を明るく演じています。看守にタバコの火を頼むあたりとか藤田進と和解するあたりはとてもよかった。この演技があって絶望のラストが胸にドスンと響いてくる。
昨今、戦争を賛美する漫画などの流行で戦争が軽く見られがちですが、戦争が始まれば辛苦をなめさせられるのは国民であるということを改めて感じさせてくれる映画でした。清水豊松は決して他人事ではないのです。巨大な組織に我々、個人個人が立ち向かえるだろうか。聖戦があるかどうかは知らない。黄色人種に勇気を与えた?結構なことだ。私が何より戦争を憎むのは戦争は確実に個人の生活を奪う。どんな立派な理由があろうともその個人においては何の意味もなさない。私が泣いてしまったのは「私は貝になりたい。そうすれば戦争にとられることも家族の心配もせずにすむ。。」と言う主人公の独白である。あれだけ大事だった家族でさえも疎んじるほど彼は世の中を恨んで死んでいくのである。静かな静かな映画です。監督は橋本忍。将来、「幻の湖」を作る人とは思えんぐらい見事なできばえになっています。それから小池朝雄の目をギョロつかせる卑怯な上等兵っぷりが堂に入っております。こういう時代だからこそぜひとも見たい作品であります。
製作:藤本真澄、監督、脚本:橋本忍、題名・遺書:加藤哲太郎、撮影:中井朝一
音楽:佐藤勝、美術:村木与四郎
出演:フランキー堺、新珠三千代、水野久美、笠智衆、中丸忠雄、藤田進、加東大介、南原伸二、小池朝雄
コメント