今日は1956年に撮られた「猫と庄造と二人のをんな」。監督が豊田四郎で主演が森繁久彌。このコンビはこの前年に天才・藤山寛美をして「森繁はんにはかなわへん。厭になってしもうた。」とまで言わせしめた「夫婦善哉」があります。何となく森繁って東京のイメージがあるんですが、神戸出身の関西人です。

 小さな金物店を商う庄造、これが森繁ね、は怠け者のカイショなし。店番をしてると思うといつのまにか、遊びに行っている。傍らにいつも猫。リリーという猫をそれこそ、猫可愛がりに可愛がっています。母親(浪花千栄子)としっかり者の嫁はん、品子(山田五十鈴 通称・ベルさん)の3人で暮らしていたのですが、嫁はんは母親と折り合いが悪く、遂に出て行ってしまいます。別れた途端に後妻はんができた。大富豪の娘である福子(香川京子)である。母親は庄造の怠けぶりを心配して持参金付きの嫁さんを連れてきたのだ。品子を追い出したのも、そのためだった。

 もうあんな家こりごり、と飛び出してきた品子でしたが仲人(葦乃家雁玉)から真相を聞かされて怒りに燃えます。もう一度、あの家に戻ってやる、と。品子は福子に吹き込む。「庄造はんは猫が大事で他の物は二番、三番や。あんじょう、気張んなはれや。」元より親が愛想を尽かすほどのじゃじゃ馬。何もかも自分の思うとおりにならないと気に入らないお嬢様。庄造に対して「猫か私か」と迫る。「無茶なこと、言いないな。。」と困惑する庄造。怒った福子はリリーを「やもめ暮らしはさびしいて、かなわん。リリーをくれへんやろか」と言っていた品子のもとに送ってしまう。品子にしてみれば、リリー恋しさに庄造は自分のところに帰ってくる、と思ってたてた作戦。まんまとうまくいった。案の定、実家を鼻にかける福子と気が合わなくなった庄造は品子のもとに帰って来るが。。

 主人公の庄造は、助平で根性なしのカイショなしの3調子揃った、駄目男ですがなんか憎めない。このアホに惚れる女子の苦労。これは関西喜劇の一つの典型となっています。その代表作が藤山寛美をして「かなわへん」と言わせしめた「夫婦善哉」。その「夫婦善哉」の駄目男をさらに一歩進めたのがこの作品。家の中がごちゃごちゃ揉めてるのを見て「えらい揉めてるなあ。。なんで仲良くでけへんのやろ」とぼやいてみたり、「わいは不幸せや!」と母親の前でワンワン泣く。とんでもなく駄目で、香川京子の足を海水浴場でなでなでするド助平。その割りには憎めないのは猫のことになると子供のように素直になってしまうところ。要は子供なんです。でもモテる。ちくしょう。

 ベルさん演じる品子は女中あがりのしっかり者。大変、気が強かったのでそれを理由で家を追い出されてしまいます。復縁を目指すその裏はお金でもない、愛でもない。あの憎い姑と後妻に一泡吹かせてやりたい。庄造を堤防まで呼び出してギロリと目を向くシーンは大変迫力がある。一方、香川京子演じる福子は家事は全くしない、わがまま娘。洗濯もしないで服を押入れに突っ込んでしまう。映画全体通して、ほとんど下着姿で(大変、結構でございました。)キれたような演技が印象的でした。ただ一番すごいのはやっぱ、母親役の浪花千栄子。金のためならば、、と福子のわがままし放題にも目をつむる。座布団の下にお金を隠して仏壇拝んでる姿は大笑いでした。決して自分の為だけではない、筈ですが「銭婆」にしか見えん。もっとも福子を甘やかしすぎて最後は土下座させられました。

 おっそろしくドロドロした物語ですが、京都出身の豊田監督は関西喜劇ならではの「少し抜いた」演出で楽しませてくれます。哲学好きの旦那とか都都逸をうなる仲人の嫁はんなどの脇役もなかなか笑わせてくれます。

監督:豊田四郎、脚本:八住利雄、原作:谷崎潤一郎、音楽:芥川也寸志
森繁久弥、山田五十鈴、香川京子、浪花千栄子、林田十郎、芦乃家雁玉、都家かつ江、 横山エンタツ 、三木のり平、三好栄子

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