今日の深作まつりは深作欣二の遺作となった「バトルロワイアル?」。この映画の撮影中に深作欣二は永眠し、映画の製作は息子の深作健太に継がれました。深作欣二監督作品というよりも、原案、企画:深作欣二、製作、企画、監督、脚本:深作健太と言えるべき作品だと思う。

 昨今、発売された立松和平の「映画主義者 深作欣二」には「バトルロワイアル?」クランクイン直前の親子のやり取りについて詳しく書いてあります。とても映画を撮れるような状態じゃなかった。クランクインの一週間前、「やめられないか。これは、俺は無理だぞ。俺が撮れなかったら、おまえプロデューサーとしてどうする」「痛くてどうにもならんのだ」という父親に対して息子は「つらいのはわかっているから、だったら、現場にいられない時はいなくてもいいよ。親子二人三脚でいかしてくれよ。いっしょにやっていこうよ」と説き伏せるやり取りがありました。

 深作健太の中にはどこかで最終的には自分がすべてやらねばならない覚悟があったように思います。その覚悟が重責になってか、作品は全体的に暗いトーンになりました。深作作品にあった、どこか突き抜けたような明るさは消え、詰め込まれたストーリーを必死に追っていくような映画、という感じがしました。

 前作「バトルロワイアル」は生徒同士が殺しあって一人だけの勝者を決めるというめちゃくちゃなストーリーでした。そこには友人を殺さねば生き残れないという、すさまじい葛藤を乗り越える悲鳴がありました。今作もその設定を引き継いでいるのですが、生徒同士が殺しあうわけでもなく、クラス全体でテロ組織を殲滅する軍隊としての役割を負わされているためにそうした葛藤が希薄であったと思います。ですから序盤の武器を取ることを拒絶して撃ち殺される奴は徹底的な非戦主義者なんだろうけど、へたれにしか見えない。実際、そうか。

 「バトルロワイアル?」は「バトルロワイアル」の続編ではありますが、テーマは「戦争」であり前作とテーマが全く変わっているのです。それを前作と同じ入り方をした、というところからそもそも無理がありました。テロ組織を殲滅する為の軍隊になんで禁止区域とかパートナーが死んだらそいつが死ぬ、とか言うルールが必要なんでしょうか。足引っ張ってるやん。ここは、テロで親を殺された子供の集団、七原秋也に恨みを抱いている、という設定の方がよかったかもしれない。キタノシオリは自ら、この戦いに志願したという設定ですがそれが彼女一人だけという設定も変です。

 それともう一つは秋也が闘う理由。前作の大人対子供という路線を無理やり引っ張るのですが、途中でアメリカvs諸国という対立軸が突然出てきます。思うに、今年の一月から二月にかけての世界情勢で脚本を一部いじったんじゃないだろうか?唐突に総理大臣が出てくるシーンも妙だし、教師RIKIの半端な扱いももう一つかみ合ってない。

 そんなに反米がやりたきゃ、思い切ってブッシュの演説のパロディとかやればよかった。実は深作の大ファンであるタランティーノが米大統領役で出演するというシーンも予定されてたそうですが、スケジュールが合わずに結局実現できなかったらしい。「あの国」なんてごまかさないではっきりやればいいのに。そうすりゃ小泉あたりが「不快だ」と罵って話題になったろうに。そこまでやってこそ、東映のカラーですよ。

 「バトルロワイアル?」は深作組として製作された作品です。長年映画を作ってきた深作監督ですが自分で企画を立てたのは「軍旗はためく下に」と「おもちゃ」だけで製作はしていません。新藤兼人や黒沢明、岡本喜八のようにプロダクションを持つことはなかったのです。東映の社員としてスタートし、俊藤さんや日下部さんと言った名プロデューサーに恵まれ、80年代まで一年に一本という頻度で仕事が入ってくる深作監督にとっては必要なかったのでしょう。

 しかし90年代に入り、「いつかギラギラする日」「忠臣蔵外伝・四谷怪談」と不入りが続き、さすがに深作監督も自分で撮りたい作品が撮れない状況になってきました。深作組を作り、お金を集め、監督にメガホンを持たせたのは深作健太氏です。臨終の際の中原早苗が言った「おじさん、健ちゃんがいてよかったね」という台詞はこうした意味を示していると思います。息子という立場を超えた存在だったのでしょう。

 テロリストの三村が七原に「振り返らずに前に進め!」と叫んで死地に飛び込んで行くシーンがあります。このテロリストに健太は父親を重ねあわせてたんじゃないだろうか。この役を深作作品の常連中の常連でデビュー作からの付き合いである千葉真一が演じたところから多分、そうでしょう。深作の戦いはその肉体が滅びても息子、深作組に受け継がれます。「仁義無き戦い」のラストの「まだ弾は残っとるがよ。。」という台詞が耳に甦ります。戦いはこれから。

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