遂に深作まつりも10夜を数えました。まだまだ行くでえ!(拓ボン風)本日はお待ちかね「現代やくざ 人斬り与太」。72年5月に封切された作品です。深作監督は生前、インタビューでこんなことを語っています。

「だから、菅原文太君みたいな素材と巡り会って、初めて「ああ、彼ならこのドラマの中で一番悪い主人公をやって、悲しみなり怒りなり鬱屈なりを出してくれるだろう」と「人斬り与太」シリーズを撮ったわけだけど、僕としては初めて「ヤクザ映画はこうやったら面白く作れるな」と確認できた様なところがあったんです。当時はそんなにお客も入らなかったけど、俊藤さん(筆者注・俊藤浩滋)も文ちゃんもこの仕事は認めてくれたし、喜んでくれたしね。そんなこんなで「仁義無き戦い」を撮って封切ったら驚いたことにお客が入ってくれたと」
(仁義無き戦い 浪漫アルバム 136ページより引用)

 インタビューで出てくる俊藤さんは東映の名プロデューサーとして多くの仁侠映画を手がけました。70年代に入り、その仁侠映画にかげりが出てきた頃、この作品は生まれました。深作監督も「日本暴力団 組長」などの仁侠映画も撮っていましたがそうした作品にもう厭きていました。その鬱屈がたまって撮られたのがこの作品だったようです。言わば、仁侠映画のパイオニアである俊藤さんがこの作品を認めたのが深作監督にとって励みになったのだと思います。

 生まれは昭和20年8月15日。つまり敗戦記念日に生まれた沖田勇は、愚連隊のどうしようもないワル。セイガクからのカツアゲはもちろんのこと、田舎から上京してきたばかりの娘を犯して、女郎屋に叩き売ったこともある。とうとう、ヤクザの組に包丁1本で殴りこみして警察にとっ捕まってしまいます。

 刑務所から出所してきた沖田。早速、チンピラと大喧嘩で何人かを子分にしちまいます。彼がいた町は今や、滝川組と矢頭組の二頭体制。ほとんど、争いも起こらない。ここに割り込むのには、かなり乱暴なやり方になる。宿無しヤクザの木崎が沖田をそそのかします。早速、滝川組を襲撃する沖田。そんなヤバイ手がいつまでも通用するわけがない。徐々に追い詰められていきます。

 その沖田に目をつけたのが滝川組のライバルである矢頭組、組長の矢頭俊介。「あれはオレの若い頃、そっくりだ。。」盃を与えて矢頭組に取り込みます。その名も桜会という名の暴力団を結成します。何もかもうまく行っていたのだが、沖田は何か面白くない。元より、人に頭を下げるのがキライ。安定なんかクソくらえの狂犬です。そんなある日、沖田は滝川組邸前で揉め事を起こす。その相手とは滝川と組んだ大阪最大の暴力団、大和会会長大和田英作。ただで済むわけが無い。矢頭は詫びを入れるよう、命令するが沖田は拒絶。もうついていけん、と仲間も離れ、沖田は孤立していく。。

 理屈も正義感も何もなし。ただの迷惑な暴れん坊である沖田。徐々に八方塞になって死んでいく。沖田は「一度、負け癖がついた犬は噛み方を忘れちまう」と嘯く。死地にしか生きられない男だ。決して正義の人じゃないし、その気持ちには共感できない。しかしそんな彼が追い詰められていくのを見ると妙に応援したくなる。それは我々の中にも沖田のように生きたいという願望が少しでも残っているからだ、と思う。普通の人は、ああ好きなようには生きられない。どこかで妥協点を見出していく。そうでなかったら生きられないのだ。

 私がこの映画で一番かっこよかったと思うのは安藤昇が演じる矢頭俊介。かつての自分の姿を見るようだ、と沖田をかばい、自分も窮地に落ちていく。自分の若い頃、というか自分の理想の姿を沖田に見出したのだろう。火を八名信夫につけさせながら、彼の目をじっと見る。全てを悟った八名信夫は単身、敵のタマを取りに行くのだ。口数はいらない。眼光が全てを物語っているのだ。

 そしてもう一人凄かったのが渚まゆみ。田舎から上京してまもない頃に沖田率いる愚連隊にレイプされ、女郎屋に叩き売られる。おのれ、憎い奴!と恨んだ沖田に彼女は惚れてしまうのだ。始終、喧嘩ばかりだがその絆は何よりも堅し。なんやねん、こいつら。。

 深作監督の作品は暴力にとり憑かれた若者が多数出てきます。その暴力の理由は任侠でも正義でも説明できない。それをストレートに描いたのがこの作品であり、「仁義の墓場」であり「仁義無き戦い 広島死闘編」なのでしょう。なお、この作品は「人斬り与太 狂犬三兄弟」という続編を生みましたが、興行的には記録的な不入り。ほされた深作監督は東映東京を離れ、東映京都で映画を撮ることになります。その第一作が「仁義無き戦い」であることは当然、皆さんご存知でしょう。

今週のマジに素敵な一言
「(妻を)浮気をしたと思い、斬りつけちまった。。オレも馬鹿だがこいつも馬鹿だ。。馬鹿だからおでん屋やるぐらいしか能がねえんだ。。あばれるわけにはいかねえ。。」
→沖田が獄の中であった、無口な谷口(三谷昇)と再会するシーン。一緒に参加しねえかと誘うのだが、こう断られる。谷口は手に刃物を仕込んでおり、顔に切りつける。奥さんの顔にはしっかりと傷が残っている。。言わば奥さんに対する罪滅ぼしですな。ちなみに奥さんは一言も台詞なし。

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