松本清張映画祭「鬼畜」〜私、お父さん、好きですよ〜
2004年4月14日 過去日本映画
今日は高槻松竹セントラルの松本清張13回忌特別企画「松本清張特集上映」から「鬼畜」。この日は「鬼畜」と「疑惑」の二本立てでどっちも岩下志麻が出ていた。この人は後年、極妻シリーズがあまりにも似合いすぎて、私達の世代にとっては「姐さん」のイメージがどうしても強い。彼女は松本清張の映画と縁があるのか、「迷走地図」「影の車」「疑惑」「鬼畜」と立て続けに出ています。最も全作品とも監督が野村芳太郎で会社が松竹なんでそちらの縁なのでしょうけど。この4つの映画で岩下志麻が演じる女性というのが、どれもタイプが違う。「鬼畜」での彼女は自分の旦那が浮気してできた子どもをいじめぬく、それは恐ろしい女性なんだがそこにどこか、悲しさをにじませている。
昨今、ドラマで「鬼畜」をやったが、全然駄目であった。色々と原因はあるが、まずは黒木瞳のような三流が岩下志麻に追いつけるわけないのだ。(どーでもいいことだが、俺は黒木瞳がキライ。「白い巨塔」も一回も見なかった。)逆立ちしたって、悪役になんか見えねえしね。たけしはさすがにうまいと思ったけどやはり手間隙かける映画とドラマの差は歴然と出るのだ。
夏の暑い昼下がり。ある決意をした菊代(小川眞由美)は6歳の利一、4歳の良子、乳飲み子の庄二を連れて、埼玉の川越に向かった。小さな印刷屋。そこが彼女の目指す先であった。印刷屋の主人、竹下宗吉(緒形拳)は料理屋で仲居をしていた菊代を囲い、7年間の間に3人の隠し子を作った。家業は順調であった。が、火事と大手の攻勢で商売はあがったり。愛人どころではなくなったのだ。そこに菊代が現れた。今まで何も知らされてなかった、妻のお梅(岩下志麻)は宗吉を激しくなじる。気の弱い宗吉は何も言い返すこともできない。そんな宗吉に菊代は愛想をつかし、子どもを押し付けて蒸発してしまった。
ただでさえ、商売が左前である。子どもを養う余裕などなかった。お梅は、旦那に裏切られた挙句に世界で一番嫌いな女の子どもを押し付けられた。宗吉の子どもと言うが、そんなのあてにならない。あんな女!その苛立ちを子どもにストレートにぶつけ、当り散らす。お梅と宗吉の間には子どもがなかった。そのことが苛立ちをさらに大きくした。しかし宗吉は子どもをかばおうともしない。赤ん坊が折檻されていても見ているだけで従業員の阿久津(蟹江敬三)は「あんた親だろう!しっかりしろ!」 と一喝される始末。
赤ん坊の庄二が栄養失調で衰弱し始めた。医者(加藤嘉)は入院を薦めるがそんな金はなかった。銀行の窓口係(大滝秀治)には融資を断られた。、ある夏日、寝ている庄二の上にシートが故意か偶然か、被さっていた。急いで病院に運んだが、栄養失調で庄二は死んだ。深夜遅くに帰宅した宗吉はお梅の仕業ではないかと思うが、口に出せなかった。「これで一つ、楽になったね」とお梅が寝床で囁いた。二人は残りの子どもも殺すことを決意する。。
何とも厭な話です。世の中、金じゃないと言いますが金がないのは本当に厭だ。何が厭か、と言うと金がないと間違いなく、人間はすさむ。宗吉にしても金があったなら、菊代へのお手当ても欠かすことなかったし、こんな修羅場迎えなくてもよかったのだ。まあ、いつか破綻は来たと思うけど。菊代は決して悪い女じゃなくて、愛人という形でも宗吉とも添い遂げたかったんだろう。でもお金の切れ目が縁の切れ目になった。蒸発して住居を転々としていく彼女もその後は幸せな人生を送ったように思えない。小川眞由美はどこかハスッパなんですが、短い出番で女の執念をよく見せた。
岩下志麻演じるお梅は完全な悪役で、子役の子どもたちは撮影が終わっても彼女には近づかなかったらしい。後世の女傑っぷりが考えられないほどの金切り声を張り上げる女を演じている。お梅と宗吉の間には子がなかった。それが宗吉を浮気に走らせた、と心のどこかで思ってしまうところから鬼畜に墜ちた。しかし、やはり悲しい。声高に彼女を責めることなどできようか。
宗吉は厭になるぐらい、気が弱くてだらしのない人間だが、悪人ではなかった。しかし悪意を持っていない奴が一番酷いことをやってしまうのだ。菊代にもお梅にも強く出ることができず、自分の子どもの目を見て話すことができない。悪を開き直ることも、悪を悔いることもできない。結局、一番の鬼畜というのは彼だったのだ。が、私が一番に共感できるのはやはり、宗吉である。この状態に自分がおかれた時に宗吉にならないとも限らんのだ。
どんどん正気を失っていく大人たちに対して、子どもが愛らしいのが救い。。ではないわな。俺が心から離れないのは娘が「私、お父さん、好きですよ」みたいなことを囁くシーンだ。この後、宗吉は東京タワーで娘を見捨てる。父親を探す娘と目が合った瞬間にエレベーターのドアが閉まる。正直、背筋が寒くなった。調子外れのヤケクソみたいに明るいオルゴールも耳から離れん。
監督、製作: 野村芳太郎 原作:松本清張 脚本: 井手雅人 撮影:川又昂 音楽:芥川也寸志 美術:森田郷平
キャスト:緒形拳、岩下志麻、岩瀬浩規、吉沢美幸、石井旬、蟹江敬三、穂積隆信、大滝秀治、松井範雄、加藤嘉、田中邦衛、江角英明、桧よしえ、三谷昇、大竹しのぶ、浜村純、梅野泰靖、鈴木瑞穂、山谷初男、小川真由美
昨今、ドラマで「鬼畜」をやったが、全然駄目であった。色々と原因はあるが、まずは黒木瞳のような三流が岩下志麻に追いつけるわけないのだ。(どーでもいいことだが、俺は黒木瞳がキライ。「白い巨塔」も一回も見なかった。)逆立ちしたって、悪役になんか見えねえしね。たけしはさすがにうまいと思ったけどやはり手間隙かける映画とドラマの差は歴然と出るのだ。
夏の暑い昼下がり。ある決意をした菊代(小川眞由美)は6歳の利一、4歳の良子、乳飲み子の庄二を連れて、埼玉の川越に向かった。小さな印刷屋。そこが彼女の目指す先であった。印刷屋の主人、竹下宗吉(緒形拳)は料理屋で仲居をしていた菊代を囲い、7年間の間に3人の隠し子を作った。家業は順調であった。が、火事と大手の攻勢で商売はあがったり。愛人どころではなくなったのだ。そこに菊代が現れた。今まで何も知らされてなかった、妻のお梅(岩下志麻)は宗吉を激しくなじる。気の弱い宗吉は何も言い返すこともできない。そんな宗吉に菊代は愛想をつかし、子どもを押し付けて蒸発してしまった。
ただでさえ、商売が左前である。子どもを養う余裕などなかった。お梅は、旦那に裏切られた挙句に世界で一番嫌いな女の子どもを押し付けられた。宗吉の子どもと言うが、そんなのあてにならない。あんな女!その苛立ちを子どもにストレートにぶつけ、当り散らす。お梅と宗吉の間には子どもがなかった。そのことが苛立ちをさらに大きくした。しかし宗吉は子どもをかばおうともしない。赤ん坊が折檻されていても見ているだけで従業員の阿久津(蟹江敬三)は「あんた親だろう!しっかりしろ!」 と一喝される始末。
赤ん坊の庄二が栄養失調で衰弱し始めた。医者(加藤嘉)は入院を薦めるがそんな金はなかった。銀行の窓口係(大滝秀治)には融資を断られた。、ある夏日、寝ている庄二の上にシートが故意か偶然か、被さっていた。急いで病院に運んだが、栄養失調で庄二は死んだ。深夜遅くに帰宅した宗吉はお梅の仕業ではないかと思うが、口に出せなかった。「これで一つ、楽になったね」とお梅が寝床で囁いた。二人は残りの子どもも殺すことを決意する。。
何とも厭な話です。世の中、金じゃないと言いますが金がないのは本当に厭だ。何が厭か、と言うと金がないと間違いなく、人間はすさむ。宗吉にしても金があったなら、菊代へのお手当ても欠かすことなかったし、こんな修羅場迎えなくてもよかったのだ。まあ、いつか破綻は来たと思うけど。菊代は決して悪い女じゃなくて、愛人という形でも宗吉とも添い遂げたかったんだろう。でもお金の切れ目が縁の切れ目になった。蒸発して住居を転々としていく彼女もその後は幸せな人生を送ったように思えない。小川眞由美はどこかハスッパなんですが、短い出番で女の執念をよく見せた。
岩下志麻演じるお梅は完全な悪役で、子役の子どもたちは撮影が終わっても彼女には近づかなかったらしい。後世の女傑っぷりが考えられないほどの金切り声を張り上げる女を演じている。お梅と宗吉の間には子がなかった。それが宗吉を浮気に走らせた、と心のどこかで思ってしまうところから鬼畜に墜ちた。しかし、やはり悲しい。声高に彼女を責めることなどできようか。
宗吉は厭になるぐらい、気が弱くてだらしのない人間だが、悪人ではなかった。しかし悪意を持っていない奴が一番酷いことをやってしまうのだ。菊代にもお梅にも強く出ることができず、自分の子どもの目を見て話すことができない。悪を開き直ることも、悪を悔いることもできない。結局、一番の鬼畜というのは彼だったのだ。が、私が一番に共感できるのはやはり、宗吉である。この状態に自分がおかれた時に宗吉にならないとも限らんのだ。
どんどん正気を失っていく大人たちに対して、子どもが愛らしいのが救い。。ではないわな。俺が心から離れないのは娘が「私、お父さん、好きですよ」みたいなことを囁くシーンだ。この後、宗吉は東京タワーで娘を見捨てる。父親を探す娘と目が合った瞬間にエレベーターのドアが閉まる。正直、背筋が寒くなった。調子外れのヤケクソみたいに明るいオルゴールも耳から離れん。
監督、製作: 野村芳太郎 原作:松本清張 脚本: 井手雅人 撮影:川又昂 音楽:芥川也寸志 美術:森田郷平
キャスト:緒形拳、岩下志麻、岩瀬浩規、吉沢美幸、石井旬、蟹江敬三、穂積隆信、大滝秀治、松井範雄、加藤嘉、田中邦衛、江角英明、桧よしえ、三谷昇、大竹しのぶ、浜村純、梅野泰靖、鈴木瑞穂、山谷初男、小川真由美
コメント